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【数字で会社を動かす⑩】予実管理|計画と実績のズレの見方と直し方

計画を立てた。毎月の試算表も出ている。それでも業績が変わらない——という会社は少なくありません。

多くの場合、足りないのは計画でも試算表でもなく、その間をつなぐ作業です。計画と実績を並べ、ズレの原因を特定し、来月の行動を変える。この一連の流れを予実管理といいます。

この記事では、ズレをどう分解するか、何%から手を打つか、そしてなぜ予実管理は続かないのかを整理します。

※ この記事は令和8年9月12日現在の公表情報にもとづいています。

この連載(全10回)の構成

回テーマ
第1回経営計画書とは何か|いつ必要になり、何の役に立つのか
第2回損益分岐点|いくら売れば赤字にならないか
第3回資金繰り表の作り方|黒字なのにお金が残らない理由
第4回経営計画書の作り方|利益から逆算して数字を組み立てる
第5回創業計画書の書き方|公庫の様式10欄を順に埋める
第6回銀行に出す事業計画書の書き方|2回目以降の融資
第7回債務者区分|銀行はあなたの会社をどう見ているか
第8回経営改善計画書|業績が落ちたときの立て直し
第9回社長が毎月見る5つの数字|月次決算の経営者目線
第10回(この記事)予実管理

1. 「売上が未達でした」は、分析ではない

月次の会議でいちばんよく聞かれるのが、この報告です。

「今月は売上が予算に対して120千円足りませんでした。来月は挽回します」

これでは、来月も同じことが起きます。足りなかったという事実は分かっても、なぜ足りなかったのかが分からないからです。原因が分からなければ、打ち手も決まりません。

予実管理の核心は、ズレを分解することにあります。

2. 売上のズレは「数量」と「単価」に分ける

第9回で見たとおり、売上は次の掛け算です。

売上高 = 客数(販売数量)× 客単価(販売単価)

したがって、売上のズレも2つに分けられます。

数量差異 =(実際の客数 - 予定の客数)× 予定の客単価

単価差異 =(実際の客単価 - 予定の客単価)× 実際の客数

具体例で見てみます

ある月の予算と実績が、こうだったとします。

客数客単価売上高
予算1,000人3,000円3,000千円
実績900人3,200円2,880千円
差△100人+200円△120千円

売上の未達は120千円です。しかし中身を分けると、こうなります。

  • 数量差異 =(900 − 1,000)× 3,000円 = △300千円
  • 単価差異 =(3,200 − 3,000)× 900人 = +180千円
  • 合計 △300千円 + 180千円 = △120千円
売上の差異を数量と単価に分解する 売上の未達120千円を、客数が減ったことによるマイナス300千円と、客単価が上がったことによるプラス180千円に分解した図。 「売上120千円の未達」の中身は、まったく違う2つの動き 売上の差 △120千円 = 数量差異 △300千円 + 単価差異 +180千円 客が100人減った → 集客・営業が課題 単価が200円上がった → 続けるべき good な動き 「120千円足りない、来月挽回します」では、この2つが打ち消し合って見えなくなる 打つ手は「集客を戻す」。そして「単価が上がった理由」は横展開する
図1:売上の差異を数量と単価に分解する

まったく違う話です。 単価は上がっている——これは第2回で見たとおり、望ましい動きです。問題は客数が1割減ったこと。打つ手は「集客」であって、「値引きしてでも売る」ではありません。

分解せずに「120千円足りない」とだけ捉えていると、値引きで客数を取り戻そうとして、上がった単価まで壊してしまうことがあります。

3. 原価のズレも「単価」と「数量」に分ける

変動費(原価)のズレも同じ考え方で分けられます。

価格差異 =(予定単価 - 実際単価)× 実際数量

数量差異 =(予定数量 - 実際数量)× 予定単価

  • 価格差異がマイナス → 仕入価格が上がった。仕入先の見直し、または販売価格への転嫁を検討
  • 数量差異がマイナス → 使いすぎ。歩留まりの悪化、ロス、廃棄の増加を疑う

原因が「仕入価格の上昇」なのか「現場のロス」なのかで、対応する部署も打ち手も変わります。まとめて「原価率が悪化しました」と報告されると、どちらにも手を打てません。

4. 利益のズレは3つに分けて見る

経常利益が予算から下振れしたとき、原因は次の3つのどれかです。

要因見るところ典型的な打ち手
売上の増減による影響売上高の差 × 予定限界利益率集客、営業活動、商品構成
限界利益率の悪化による影響限界利益率の差 × 実際売上高仕入価格の転嫁、値引きの抑制、ロス削減
固定費の増加による影響固定費の差人員計画、家賃・リース、じわじわ増える経費の点検

この3つに分けて金額を出すと、どれがいちばん効いているかがひと目で分かります。会議で議論すべき順番も、自動的に決まります。

5. 何%のズレから手を打つか

「何%までは許容範囲か」とよく聞かれますが、実務書の答えはおおむね一致しています。割合にかかわらず、下振れしたらその月のうちに原因を確かめるというものです。

理由は第2回の安全余裕率にあります。損益分岐点比率が90%の会社(安全余裕率10%)は、売上が1割落ちただけで赤字です。そういう会社にとって、3%の未達は決して小さくありません。

とはいえ、毎月すべてを深掘りするのは現実的ではありません。実務では、次のような線引きが使いやすいと考えています。

ズレの状況対応
単月で予算比おおむね95%以上原因を一言確認して次へ
単月で予算比90%前後数量と単価に分解し、原因を特定する
2か月続けて未達、または累計で予算比90%を下回った行動計画そのものを見直す
累計で予算比おおむね80%を下回った計画の前提を見直す(下方修正の検討)

最後の行の「おおむね80%」は、金融機関の実務で使われる目安と重なります。金融検査マニュアル別冊には、経営改善計画の進捗について次の記載がありました。

中小・零細企業等の場合、(中略)経営改善計画等の進捗状況が計画を下回る(売上高等及び当期利益が事業計画に比して概ね8割に満たない)場合がある。 その際における債務者区分の検証においては、経営改善計画等の進捗状況のみをもって機械的・画一的に判断するのではなく、計画を下回った要因について分析するとともに、今後の経営改善の見通し等を検討することが必要である。

(金融庁「金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕」平成27年1月)

注目していただきたいのは、**「要因について分析する」**という部分です。8割を下回ったこと自体より、その理由を説明できるかどうかが問われています。これは銀行対応に限らず、社内の会議でもまったく同じです。

6. 計画を下方修正すべきとき

未達が続いたとき、計画を作り直すべきか、そのまま追い続けるべきか。判断基準は、次のように整理できます。

下方修正を検討すべき状態

  • 外部環境(市場、取引先、法規制、原材料価格)が計画時と明らかに変わった
  • 行動計画(誰が何をするか)を見直しても、目標に届く道筋が描けない
  • 前提としていた大口受注や新規出店が、実現しないことが確定した

まだ修正すべきでない状態

  • 行動計画がそもそも実行されていない(計画ではなく実行の問題)
  • 未達の原因が特定できていない
  • 単月のぶれにすぎず、累計では計画線上にある

いちばん多い誤りは、行動していないのに計画のほうを下げてしまうことです。 これをやると、計画は「できそうな数字を後から書く表」になり、経営の道具ではなくなります。

なお、金融機関に提出した計画を修正する場合は、修正する前に相談するのが原則です。黙って下方修正した計画を後から出すと、計画そのものの信頼が失われます。

7. 予実管理が続かない3つの原因

多くの会社が一度は予実管理を始め、そして半年ほどで止まります。原因はだいたい次の3つです。

予実管理が続かない3つの原因と対策 締めが遅い、予算が願望の数字、見るだけで終わる、という3つの原因と、それぞれに対応する仕組みを並べた図。 続かない原因と、その対策 ① 締めが遅い 1円単位の正確さを求めて、 数字が出るのが2か月後になる → 翌月15日までに概算で締める 月次に厳密さは要らない。 ズレは翌月に直せばよい ② 予算が「願望の数字」 誰が・いつ・何をするかという 行動計画と結びついていない → 数字の裏に行動を1対1で置く 「新規5件」の裏に「訪問30件を 営業2名で」を書く ③ 見るだけで終わる 差異が出ても原因を追わず、 対策も決めずに次の月へ → 毎月同じ日に業績検討会議 数字の確認と、行動が実行され たかの確認を、必ずセットで
図2:予実管理が続かない3つの原因と対策

とくに②が根本原因です

予算の数字だけがあって、行動計画がない。この状態だと、未達のときに話せることが「がんばります」しかなくなります。

数字の裏には、必ず行動を1対1で置いてください。

数字の目標裏づけとなる行動(KPI)担当期日
新規顧客 月5件見込み客への訪問 月30件営業部 A・B毎月
客単価 +200円セットメニューの提案を全卓で店長10月から
原価率 △1%主要3品目の仕入先を相見積り購買 C11月末まで

こうしておくと、未達のときに**「行動はやったが結果が出なかった」のか「そもそも行動していない」のか**が区別できます。この区別ができると、会議の質が根本的に変わります。

8. 予実管理を回す1か月のサイクル

時期やること
翌月1日〜15日前月の月次決算を締める(第9回)
締まったらすぐ予算と実績を並べ、ズレを数量と単価に分解する
毎月決まった日業績検討会議。①事実の確認 ②原因の特定 ③来月の行動決定
会議の後決めた行動を、担当・期日・数値つきで文書に残す
翌月の会議前月に決めた行動が実行されたかから始める

最後の行がいちばん大事です。前回決めたことの確認から始めない会議は、続きません。

まとめ

  • 「未達でした」で止めず、ズレを分解するのが予実管理の核心
  • 売上のズレは数量差異と単価差異に分ける。打ち手がまったく変わる
  • 原価のズレは**価格差異(仕入価格)と数量差異(ロス・歩留まり)**に分ける
  • 利益のズレは売上/限界利益率/固定費の3要因に分けると、議論の順番が決まる
  • 下振れしたら割合にかかわらず原因を確認する。**累計で予算比おおむね80%**は、金融機関の実務でも一つの節目
  • 計画の下方修正は環境が変わったとき。行動していないのに計画を下げない
  • 続かない原因は締めが遅い/予算が願望/見るだけの3つ。数字の裏に担当と期日の入った行動を置く

これで連載は最終回です。第1回から順にお読みいただくと、**経営計画書とは何かを知り(第1回)、損益分岐点と資金繰りを押さえ(第2回・第3回)、利益から逆算して計画を作り(第4回)、銀行に説明し(第5回〜第8回)、毎月回していく(第9回・第10回)**という一本の流れになります。

予実管理が回らないときは、その手前を見てください

予実管理が続かない最大の原因は、第7節で挙げたとおり月次の締めが遅いことです。前月の数字が翌月の下旬にしか出てこない会社では、どれだけ分析の手法を学んでも間に合いません。

そして締めが遅い原因は、たいてい予実管理の側にはありません。領収書や請求書が月末にまとめて出てくる、記帳が溜まっている、残高が合わずに探している——原因は、その手前の日々の経理にあります。

その土台の作り方は、別の連載「会計業務シリーズ」(全5回)で扱っています。計画を回したいのに月次が間に合わない、という方は、こちらもあわせてご覧ください。

回テーマ
第1回会計業務の全体像|取引から決算・申告までの1年の流れ
第2回証憑の集め方と保存|経理の実務と電子帳簿保存法・インボイス
第3回日々の記帳|仕訳と勘定科目の基本
第4回月次決算と試算表の点検|毎月の締め方と、残高が合わないときの探し方
第5回決算と法人税申告|決算日後2か月で何が起きるか

経営計画は、日々の経理の上に乗っています。 証憑が集まり、記帳が追いつき、毎月きちんと締まる。その状態ができて初めて、計画と実績を比べる作業が意味を持ちます。

当事務所では、毎月の巡回監査の場で予算と実績を並べ、ズレの分解までご一緒に行っています。行動計画に落とすところまでお手伝いしますので、板橋区・大山で「計画を立てたが回っていない」とお感じの方は、無料相談をご利用ください。

参考(公的情報)

なお、会計の実務では、金額を千円単位で表すことがよくあります。この記事もそれに合わせています。1,000千円 = 100万円と読み替えてください。

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