【数字で会社を動かす①】経営計画書とは何か|いつ必要になり、何の役に立つのか
「経営計画書を作りましょう」と言われて、気が進む社長はあまりいません。手間がかかるうえに、銀行に出すために仕方なく作る書類だと思われているからです。
けれども、実際に作った会社に話を聞くと、いちばん役に立ったのは銀行への提出ではなく、「来期いくら利益が要るのか」が自分の言葉で言えるようになったことだと言われます。決算書は終わった1年の記録ですが、経営計画書はこれから始まる1年の設計図です。使う相手が違います。
この連載「数字で会社を動かす」は、その設計図の作り方と使い方を全10回に分けて追いかけます。第1回は、その入口として「経営計画書とは何なのか」「どんな場面で必要になるのか」を整理します。
※ この記事は令和8年9月19日現在の公表情報にもとづいています。制度の内容は変わることがありますので、実際のご検討の際は最新の情報をご確認ください。
この連載(全10回)の構成
| 段階 | 回 | テーマ |
|---|---|---|
| 入口 | 第1回(この記事) | 経営計画書とは何か|いつ必要になり、何の役に立つのか |
| 知識 | 第2回 | 損益分岐点|いくら売れば赤字にならないか |
| 知識 | 第3回 | 資金繰り表の作り方|黒字なのにお金が残らない理由 |
| 作る | 第4回 | 経営計画書の作り方|利益から逆算して数字を組み立てる |
| 銀行 | 第5回 | 創業計画書の書き方|公庫の様式10欄を順に埋める |
| 銀行 | 第6回 | 銀行に出す事業計画書の書き方|2回目以降の融資 |
| 銀行 | 第7回 | 債務者区分|銀行はあなたの会社をどう見ているか |
| 銀行 | 第8回 | 経営改善計画書|業績が落ちたときの立て直し |
| 回す | 第9回 | 社長が毎月見る5つの数字|月次決算の経営者目線 |
| 回す | 第10回 | 予実管理|計画と実績のズレの見方と直し方 |
※ 第2回以降は、数日おきに順次公開します。公開ずみの回には、この表からリンクを張っていきます。
1. 経営計画書には「3つの顔」がある
経営計画書がつかみにくいのは、使う相手によって顔が変わるからです。同じ一冊が、社内では旗印になり、銀行では返済能力の証明書になり、経理では毎月の物差しになります。
| 顔 | 誰に向けたものか | そこで問われること |
|---|---|---|
| ① 会社の旗印 | 社員・後継者・採用候補者 | この会社はどこへ向かうのか。何を大事にするのか |
| ② 返済能力の証明 | 銀行・信用保証協会・公庫 | 将来生み出すお金で、この借入を返せるのか |
| ③ 毎月の物差し | 社長自身・経理 | 今月は計画に対してどうだったのか。何を直すのか |
3つのうち、いちばん後回しにされるのが③です。ところが、計画書が「作っただけ」で終わるか、会社が変わるかの分かれ目は、ほぼここにあります。この連載の後半(第9回・第10回)を、毎月回す話に充てているのはそのためです。
2. 経営計画書には何が書いてあるのか
中身は、大きく**「言葉の部分」「数字の部分」「行動の部分」**の3層に分かれます。よく「経営計画書=数字の表」と思われますが、数字はまん中の1層にすぎません。
もう少し細かく見ると、標準的な経営計画書は次の10項目で構成されます。
はじめから10項目すべてを揃える必要はありません。A4・1枚から始めて構いません。最低限そろえるべき項目は第4回で扱います。
| # | 項目 | 何を書くか |
|---|---|---|
| 1 | 意義・副題 | なぜ今この計画を作るのか。計画全体を一言で表す見出し |
| 2 | 経営理念 | 会社の判断基準になる価値観。何のために存在する会社か |
| 3 | 経営ビジョン | 3年後・5年後に、どういう会社になっていたいか |
| 4 | 環境分析 | 外部の機会と脅威/自社の強みと弱み |
| 5 | 経営目標 | 期間内に達成する売上高・利益などの数値目標 |
| 6 | 経営方針 | 人・物・金・情報をどこに配分するか |
| 7 | 計数計画 | 3か年の損益計画、初年度の月別計画、資金繰り計画 |
| 8 | 主要施策 | 目標達成のための部門別の重点取り組み |
| 9 | 行動計画 | 8を「誰が・いつ・何を・どこまで」に落としたもの |
| 10 | 進捗管理 | 毎月、予算と実績を見比べて軌道修正する仕組み |
3. 経営計画書が必要になる場面
「いつか作ろう」と思っているうちは作らないものです。実際には、外から求められて初めて作ることがほとんどです。求められる場面を先に知っておくと、いざというときに慌てずに済みます。
| 場面 | 何のために求められるか |
|---|---|
| 新規・追加の融資 | 過去の決算書だけでは足りず、将来生み出すお金で返せるかを示すため |
| 創業融資 | 実績がないため、計画と自己資金が唯一の判断材料になる(第5回) |
| 返済条件の変更(リスケ) | どう立て直し、いつ返済を再開できるかの筋道を示すため(第8回) |
| 金融機関の評価を上げたいとき | 決算のたびに計画と結果を報告することで、経営管理ができる会社と見てもらうため(第7回) |
| 補助金・公的支援 | 事業の実現可能性・収益性を客観的に示すため。専門家の関与が条件のものもある |
| 許認可・認証の取得 | 体制・設備・人員の計画を行政や審査機関に示すため |
| 事業承継 | 後継者が自社の強みと課題を整理し、今後の方向を社内外に示すため |
| 社員との共有・採用 | 目指す方向と各人の役割を明示し、入社後のミスマッチを防ぐため |
とくに融資の場面では、銀行が見ているのは**「利益+減価償却費」で借入を返していけるか**という一点です。ここが計画の中心になります。くわしくは第6回・第7回で扱います。
4. 「事業計画書」「創業計画書」との違い
呼び名が似ていて混乱しやすいところです。目的と提出先が違うだけで、数字の作り方は共通だと考えてください。
| 名称 | 主に使う場面 | 特徴 | 本連載での回 |
|---|---|---|---|
| 経営計画書 | 社内・金融機関全般 | いちばん広い概念。理念から行動計画まで含む | 第4回 |
| 創業計画書 | 創業時の融資 | 実績がないため、経歴・自己資金・見通しが中心。公庫の様式が定番 | 第5回 |
| 事業計画書 | 2回目以降の融資、新規事業 | 決算書という実績の上に、資金使途と返済原資を重ねて示す | 第6回 |
| 経営改善計画書 | 業績悪化時・リスケ | 立て直しに特化。金融機関による定期的な進捗確認がセットになる | 第8回 |
5. 作らない理由・続かない理由
中小企業で経営計画が根づかない理由は、だいたい決まっています。先に知っておくと避けられます。
作らない理由
- 時間と人手がない。 専任の担当者がおらず、社長も現場に出ている
- 数字が苦手。 月次で数字を確認する習慣がないまま、感覚で判断している
- 提出用の書類だと思っている。 銀行に言われたから作るもの、という受け止め方
作っても続かない理由
| 原因 | 症状 | 連載での対処 |
|---|---|---|
| 分厚すぎる | 数十ページ作ったが、更新できず放置 | まずA4・1枚から(第4回) |
| 数字だけで行動がない | 「売上10%増」とあるが、誰が何をするかが無い | 行動計画の作り方(第4回・第10回) |
| 根拠のない願望 | 達成できる気がせず、社員が冷める | 利益からの逆算と売上の分解(第2回・第4回) |
| 毎月見ていない | 作って終わり。差が出ても気づかない | 月次決算と予実管理(第9回・第10回) |
| 社内で共有していない | 社長と一部の幹部しか知らない | 行動計画に担当と期日を入れる(第4回) |
このうち**「毎月見ていない」がいちばん多く、いちばん致命的**です。計画は、立てた瞬間から実態とずれ始めます。ずれること自体は問題ではなく、ずれに気づかないまま半年たつことが問題です。
6. この連載の歩き方
第2回からは、順に次の4段階で進みます。
- 知識(第2回・第3回) — 計画の数字を自分で作るために必要な、損益分岐点と資金繰りの考え方
- 作る(第4回) — 利益から逆算して、3か年と月別の数字を組み立てる
- 銀行に見せる(第5回〜第8回) — 創業期・成長期・下降期のそれぞれで求められる書類と、銀行から自社がどう見えているか
- 毎月回す(第9回・第10回) — 月次決算で数字を見て、計画とのズレを直していく
各回は単独でも読めるように書いています。いま必要な回から読んでいただいて構いません。
まとめ
- 経営計画書には3つの顔がある。社内の旗印/銀行への返済能力の証明/毎月の物差し
- 中身は**「言葉 → 数字 → 行動」の3層**。数字だけでは計画にならない
- 必要になる場面は融資・補助金・許認可・事業承継・社内共有など。多くは外から求められて作ることになる
- 創業計画書・事業計画書・経営改善計画書は、目的と提出先が違うだけで数字の作り方は共通
- 続かない最大の原因は毎月見ていないこと。ずれることではなく、ずれに気づかないことが問題
- はじめから完璧を目指さず、A4・1枚から始めてよい
板橋区大山の当事務所では、毎月お伺いする巡回監査の場で、計画と実績を並べて確認しています。「計画を作りたいが何から手をつければいいか分からない」「銀行に計画書を出すように言われた」という方は、無料相談でお気軽にお尋ねください。税理士と行政書士の両方の登録がありますので、許認可がからむご相談もあわせてお受けできます。
→ 第2回「損益分岐点|いくら売れば赤字にならないか」は、2026年9月22日に公開予定です。
参考(公的情報)
- 中小企業庁:経営力向上計画(中小企業等経営強化法。A4数枚の計画書で税制・金融支援の対象になります)
- 中小企業庁:経営革新計画(新商品開発などに取り組む3〜5年の計画。都道府県知事等の承認制)
- 中小企業庁:早期経営改善計画策定支援(金融機関の同意が不要な段階で使える計画づくりの支援)
- 中小企業庁:経営改善計画策定支援(返済条件の変更などを伴う場合の支援)
- 経済産業省:ローカルベンチマーク(財務6指標と非財務4視点で自社の位置を確認できます)
- 中小企業庁:中小企業白書(中小企業の経営課題に関する毎年の調査)