法人向け

【会計業務シリーズ③】日々の記帳|仕訳と勘定科目の基本を図解

第2回では、証憑をどう集めて保存するかを見ました。集めた証憑は、次に帳簿へ記録します。これが記帳、つまり仕訳(しわけ)の作業です。

仕訳は、簿記を学んだことがない方にとって最初の関門です。「借方」「貸方」という聞き慣れない言葉が出てきて、そこで止まってしまう方が少なくありません。ですが、仕組みそのものは単純で、覚えることは実は多くありません。

この記事では、仕訳の考え方と勘定科目の選び方、そして会計ソフトを使う現在ならではのつまずきどころを、板橋区大山の税理士・行政書士が整理します。

※ この記事は令和8年8月30日現在の法令・公表情報にもとづいています。

この連載(全5回)の構成

テーマ
第1回会計業務の全体像|取引から決算・申告までの1年の流れ
第2回証憑の集め方と保存|経理の実務と電子帳簿保存法・インボイス
第3回(この記事)日々の記帳|仕訳と勘定科目の基本
第4回月次決算と試算表の読み方
第5回決算と法人税申告|決算日後2か月の流れ

1. 仕訳とは「1つの取引を、両面から記録する」こと

おこづかい帳は「使った」「もらった」という1点だけを記録します。これを単式簿記といいます。

これに対して会社の帳簿は、1つの取引を必ず2つの面から記録します。これが複式簿記です。たとえば「1,000円分の切手を現金で買った」という取引には、次の2つの面があります。

  • 通信費という費用が発生した(何のために使ったか)
  • 手元の現金が減った(どうやって払ったか)

この2つを、左右に分けて同時に書きます。

仕訳の基本の形と、借方・貸方の覚え方 1,000円分の切手を現金で買った取引を、左側の借方に通信費1,000円、右側の貸方に現金1,000円と記録する例。あわせて、かりかたの「り」が左に払うので左、かしかたの「し」が右に払うので右、という覚え方を示した図。 例)1,000円分の切手を現金で買った 借方(左) 貸方(右) 通信費 1,000 現金 1,000 費用が発生した(何に使ったか) 現金が減った(どう払ったか) 覚え方:「かり」の「り」は最後を左に払う → 借方は左     「かし」の「し」は最後を右に払う → 貸方は右
図1:仕訳の基本の形と、借方・貸方の覚え方

左右の金額は必ず一致します。 これが複式簿記のいちばん大切な性質で、後で述べる試算表のチェックはここに支えられています。

2. 「増えたらどちら側か」は、決算書の定位置で決まる

借方・貸方のどちらに書くかは、暗記するものではありません。決算書のどこに置かれる項目かで決まります。

決算書における5つのグループの定位置 貸借対照表では資産が左、負債と純資産が右に並び、損益計算書では費用が左、収益が右に並ぶ。増えたときは定位置の側に、減ったときは反対側に記入することを示した図。 決算書での「定位置」を覚えれば、左右は迷わない 貸借対照表(会社の財産の状態) 資産 現金・預金・売掛金・備品など 負債 買掛金・未払金・借入金 純資産 資本金・繰越利益剰余金 損益計算書(1年間のもうけ) 費用 仕入・給与・旅費交通費など 収益 売上・受取利息・雑収入 増えたときは、この定位置の側に書く。減ったときは反対側に書く。
図2:決算書における5つのグループの定位置

濃い色が左(借方)に並ぶグループ、薄い色が右(貸方)に並ぶグループです。これを表にすると次のようになります。

グループ内容増えたとき減ったとき
資産現金・預金・売掛金・備品など借方(左)貸方(右)
負債買掛金・未払金・借入金など貸方(右)借方(左)
純資産資本金・繰越利益剰余金など貸方(右)借方(左)
費用仕入・給与・旅費交通費など借方(左)貸方(右)
収益売上・受取利息・雑収入など貸方(右)借方(左)

先ほどの切手の例なら、通信費は費用なので発生して借方、現金は資産で減ったので貸方。表を見なくても、決算書の形を思い浮かべれば判断できます。

なぜ「貸借対照表」は貸が先なのに、借方が左なのか

借方・貸方が覚えにくい理由のひとつに、「貸借対照表」という言葉の並びと左右が逆だという点があります。言葉は「貸」が先なのに、実際は借方が左、貸方が右です。

これには、簿記が日本に入ってきた時期が関係している、という説明がよく知られています。

西洋式の複式簿記が日本に紹介されたのは明治初期で、福沢諭吉が明治6年(1873年)に著した『帳合之法』が最初とされます。渡米した際に持ち帰ったアメリカの簿記の教科書を訳したもので、debit を「借方」、credit を「貸方」と訳したのも福沢です。

当時の日本では、横書きは右から左へ書くのが普通でした。そのため「貸借対照表」は、当時の紙の上ではこう並んでいたことになります。

表 照 対 借 貸

右端が「貸」、その左が「借」です。右に貸、左に借——つまり、貸方が右・借方が左という帳簿の配置と、文字の並びがぴったり一致していたわけです。

その後、日本語の横書きが左から右へ変わったため、言葉の並びだけが逆に見えるようになりました。 覚えにくいのは言葉が悪いのではなく、書く向きが変わったからということになります。

3. 勘定科目の選び方——鉄則は2つだけ

「この支払いは何費にすればよいのか」は、経理でいちばんよく出る質問です。実は、正解が1つに決まらないケースが多くあります。 そのうえで、実務の鉄則は次の2つです。

鉄則1:科目の数は必要最小限にする

迷うたびに新しい科目を作ると、帳簿はどんどん複雑になります。しかも科目が増えると、前の年との比較ができなくなります。 「去年より広告費が増えたのか」を見たいのに、途中から「宣伝費」という科目に分かれていたら比較になりません。

鉄則2:同じ取引には、いつも同じ科目を使う

こちらのほうが重要です。継続していれば、多少の分類のズレは大きな問題になりません。 迷ったときは、新しく決めるのではなく「去年はどう処理していたか」を確認する。これが最大の失敗防止策です。

当事務所では、顧問先ごとに「この支払いはこの科目」という社内基準を一覧にしておくことをおすすめしています。担当者が代わったときに、いちばん効きます。

迷ったときの手順

  1. 去年の同じような取引を探す。会計ソフトの検索で取引先名を入れれば出てきます
  2. なければ社内基準の一覧を見る。なければこの機会に1行足す
  3. それでも迷うものだけ、税理士に確認する

3まで持ち込むべきものは限られています。金額が大きいものと、税務上の扱いが分かれるものです。後者の代表が、交際費と会議費の区分、寄附金にあたるかどうか、そして修繕費か資本的支出か(修理として一度に損金にするか、資産に計上して数年かけて費用にするか)の判断です。ここは科目の選び方というより税額そのものが変わる論点なので、迷ったら遠慮なくお尋ねください。

4. よく使う仕訳の型

日々の取引の大半は、次の型の組み合わせです。この7つを押さえれば、実務の8割はカバーできます。

場面借方(左)貸方(右)
経費を現金で払った(切手代1,000円)通信費 1,000現金 1,000
現金を口座に預け入れた(30,000円)普通預金 30,000現金 30,000
電気代が口座から落ちた(5,000円)水道光熱費 5,000普通預金 5,000
現金で売り上げた(120,000円)現金 120,000売上 120,000
掛けで売り上げた(110,000円・税抜経理)売掛金 110,000売上 100,000/仮受消費税 10,000
売掛金が入金された(110,000円)普通預金 110,000売掛金 110,000
掛けで仕入れた(10,000円)仕入 10,000買掛金 10,000

売掛金は「後でお金をもらえる権利」なので資産です。売り上げたときに増えるので借方、入金されて権利が消えるので貸方。買掛金は「後で払う義務」なので負債です。仕入れたときに増えるので貸方、支払って義務が消えるので借方。

ここが理解できれば、あとは応用です。

なお、上の掛売上は税抜経理の例です。税込経理では消費税を分けずに「売掛金110,000/売上110,000」と記帳します。どちらを採用するかは会社ごとに決め、期中は統一します。

5. 摘要欄は「半年後の自分」のために書く

仕訳には、日付・科目・金額のほかに摘要(てきよう)という自由記入の欄があります。決まりがないぶん、空欄のままか「支払」の一言で済ませてしまいがちです。

ところが、決算のとき、税務調査のとき、そして「去年はどう処理したか」を調べるときに手がかりになるのは、この摘要欄だけです。半年後の自分が読んで分かるかどうかが基準になります。

書き方の型は「誰と・何を・どの案件で」です。

よくない例直した例
支払○○商事/9月分 商品仕入
会議費△△様と打合せ(当社2名・先方1名)/□□案件
消耗品事務所用プリンター用紙・トナー

とくに次の3つは、必ず書いておいてください。

  • 交際費・会議費……相手先と参加人数。税務上の区分が人数で変わるため、後から思い出せないと困ります
  • 消耗品費・雑費……買ったものの中身。金額によっては資産に計上すべきものが混ざります
  • 立替えと精算……誰の分か。役員個人の支出が混ざっていないかの確認に使います

巡回監査でお伺いしていても、摘要欄が整っている会社は月次のやり取りがすぐ終わります。逆に空欄が多いと、毎月「これは何の支払いですか」という確認から始まることになります。入力するその場で書くのが、結局いちばん早いというのが実感です。

6. 記帳はいつやるか——ためないことが最大のコツ

記帳のタイミングに法律上の決まりはありませんが、ためた分だけ確実に難しくなります。 おすすめしている型は次のとおりです。

いつやること
毎日現金の実残高と現金出納帳を突き合わせて締める(第2回参照)
週1回証憑の回収とセットで、その週の分を記帳する
月初前月分を締め、通帳残高と帳簿残高を照合して試算表を出す

「1年分をまとめて」という進め方は、証憑の紛失と記憶違いのリスクが高いうえに、そもそも経営判断に使えません。 数字が出てくるのが1年後では、手の打ちようがないためです。

なお、現金出納帳・預金出納帳・売掛帳・買掛帳などは補助簿と呼ばれ、仕訳帳と総勘定元帳(主要簿)を補う位置づけです。会計ソフトを使っていれば、仕訳を入力するだけでこれらは自動的にできあがります。別途つける必要はありません。

7. 仕訳から決算書まで、一本でつながっている

日々の仕訳は、決算書までまっすぐつながっています。

取引から決算書までの流れ 証憑から仕訳帳へ記録し、勘定科目ごとに総勘定元帳へ転記し、集計して試算表を作り、最後に決算書へつながる流れを示した図。 記帳は決算書まで一本でつながっている 証憑 仕訳帳 総勘定元帳 試算表 決算書 請求書・ 領収書など 日付順に すべて記録 勘定科目ごと にまとめる 月ごとに 残高を集計 1年分を まとめる ※ 会計ソフトを使う場合、仕訳を1回入力すれば、元帳への転記も試算表の集計も自動で行われます。   手で書き写す作業はありません。とはいえ、裏側で何が起きているかを知っておくと、   数字が合わないときに原因をたどれます。 仕訳が正しければ、試算表の借方合計と貸方合計は必ず一致する。
図3:取引から決算書までの流れ

試算表で借方の合計と貸方の合計が一致しない場合、どこかに入力漏れか左右の入れ違いがあります。 逆にいえば、一致しているだけでは「金額そのものが正しい」とはいえません。試算表の読み方は、次回の第4回で詳しく扱います。

8. 記帳でよくある3つの間違い

会計ソフトが普及したことで、間違いの種類も変わりました。現在いちばん多いのは次の3つです。

① 二重仕訳(同じ取引を2回計上する)

いまいちばん多い間違いです。 銀行口座やクレジットカードを会計ソフトに連携していると、ソフトが口座の動きから仕訳の候補を自動で作ります。ところが担当者が同じ取引を請求書から手で入力していた場合、1つの取引が二重に計上されます。

防ぎ方は2つです。

  • 「どこまでを自動連携に任せ、どこからを手入力にするか」の境界線を、ルールとして決めておく
  • 月末に、通帳の実際の残高と帳簿の預金残高を突き合わせる。ズレたらその日のうちに調べる

② 日付違い(いつの取引として記録するか)

自動連携を使うと、口座から落ちた日(決済日)で仕訳が作られます。しかし本来の取引日は、請求書や領収書に書かれた日です。ここを直さないまま登録すると、月をまたぐ取引で売上や費用が1か月ずれます。

仕入や売上を「いつの時点で計上するか」(出荷した日か、届いた日か、検収が終わった日か)も、会社ごとに基準を決めて毎月同じ基準を使い続けることが必要です。

記帳のやり方を工夫すると、間違いに自分で気づけます

①②のような誤りは、記帳の仕方を決めておくだけで、残高を見れば気づけるようになります。 当事務所が顧問先におすすめしている方法です。

やることは、相手科目を債権・債務で受けるという一点だけです。

場面相手科目
預金に入金があったとき売掛金
預金から支払があったとき/カードで支払ったとき未払金
売上を計上するとき売掛金
経費を計上するとき未払金

こうすると、売上と入金、経費と支払が、必ず売掛金・未払金という同じ科目を通ることになります。正しく1回ずつ計上されていれば、売掛金と未払金の残高は、まだ入金・支払が済んでいない分だけになるはずです。

そのため、間違いは次のように残高へ現れます。

何が起きたか債権債務の残高の現れ方
売上・経費を二重に計上した入金・支払で消えるはずの残高が、消えずに残る
売上・経費の計上が漏れた増えていないものを消すことになるため、残高がマイナス(逆側)に振れる

つまり、売掛金と未払金の残高を見るだけで、売上・費用の計上ミスに気づけるようになります。取引を1件ずつ突き合わせなくても、残高の異常が教えてくれるわけです。

実はこの考え方は、大企業の経理でも使われています。取引量が多い会社では、売上や費用の計上漏れ・二重計上を1件ずつ確認することが現実的に不可能なため、債権債務の勘定があるべき残高になっているかどうかをチェックすることで、間接的に損益の正しさを確かめています。規模が小さいうちから同じ形にしておけば、取引が増えても同じやり方で回せます。

逆に、入金を「普通預金/売上」と直接記帳してしまうと、この検知はまったく効きません。一手間に見えて、後から効いてくる書き方です。第4回で扱う月次のチェックでも、ここを見ます。

③ 税区分の誤り——令和8年10月からはとくに注意

消費税の税区分(10%か、軽減税率8%か、インボイスのない仕入れか)の設定ミスも定番です。

そして令和8年10月1日から、免税事業者などからの仕入れで控除できる割合が80%から70%に変わります。 実務では「過去の仕訳をコピーして新しい仕訳を作る」操作を頻繁に行いますが、コピー元の80%控除の設定が残ったまま登録してしまうミスが起きやすい局面です。

10月に入ったら、まず税区分の設定が更新されているかを確認し、コピーで起票する場合はチェック項目に入れてください。経過措置の内容は第2回で図にまとめています。

よくある質問

Q. 借方・貸方の「借りる」「貸す」という言葉に意味はありますか。

A. 現在の使い方では、言葉の意味と中身は一致していません。 単に「左」「右」を指す記号だと割り切ってしまうのが早道です。

Q. 領収書がない支払いは、記帳できないのでしょうか。

A. 電車代など領収書が出ないものは、出金伝票に日付・金額・支払先・内容を書いて残せば記帳できます。第2回で扱っています。

Q. 会計ソフトが自動で科目を提案してくれます。そのまま使ってよいですか。

A. 提案はあくまで過去の履歴や名称からの推測です。同じ取引先でも取引の中身が違えば科目は変わります。 提案をそのまま採用してよいか、月に一度は見直してください。

Q. 仕訳を間違えたことに後から気づきました。消してよいですか。

A. 会計ソフトでは、訂正の履歴が残る形で修正するのが原則です。日付をさかのぼって書き換えると、すでに提出した試算表と食い違います。 気づいた時点で担当の税理士にご相談ください。

まとめ

  • 仕訳は1つの取引を左右の両面から記録すること。左右の金額は必ず一致する
  • 借方は左、貸方は右。「かり」の「り」は左へ払う、と覚える
  • 増えたときにどちら側に書くかは、決算書での定位置で決まる
  • 勘定科目は数を絞る/同じ取引には同じ科目を使い続けるの2つが鉄則
  • 摘要欄は「誰と・何を・どの案件で」。半年後の自分が読んで分かるように書く
  • 記帳はためない。現金は毎日、記帳は週1回、月初に前月を締める
  • 仕訳は仕訳帳→総勘定元帳→試算表→決算書へ一本でつながる
  • いま多い間違いは二重仕訳・日付違い・税区分の誤り。とくに令和8年10月の80%→70%は要注意
  • 相手科目を売掛金・未払金で受けると、残高を見るだけで二重計上や計上漏れに気づける

記帳は、慣れるまでは時間がかかりますが、型が決まってしまえば毎月同じ作業になります。逆に、最初のルール決めを飛ばしたまま進めると、決算のたびにさかのぼって直すことになります。

板橋区大山の当事務所では、毎月お伺いする巡回監査のなかで、記帳のルールづくりから、自動連携と手入力の線引き、月末の残高チェックまでをご一緒しています。「自己流でやってきたが、これで合っているのか不安」という方は、お気軽に無料相談でお尋ねください。

次回は、1か月分の記帳を締めて試算表を読むところを取り上げます。数字のどこを見れば会社の状態が分かるのかを整理します。

参考(公的情報)

税金・会計のご相談は当事務所へ

板橋区・大山の吉本勝也税理士行政書士事務所が、あなたの状況に合わせてお答えします。

無料相談を申し込む