【数字で会社を動かす⑦】債務者区分とは|銀行が会社を6段階に分ける仕組み
「今年は赤字だから、もう銀行は貸してくれないだろう」——決算の数字を見て、そう決めつけてしまう社長は少なくありません。
ですが、銀行の側から見ると、赤字かどうかは判断材料の一つにすぎません。銀行は融資先を6つの段階に分けて管理しており、その分け方には、金融庁が公表してきた文書という手がかりがあります。そして、そこには「中小企業の赤字や債務超過を、表面の数字だけで判断してはならない」という趣旨のことが、はっきりと書かれています。
この記事では、その仕組み——債務者区分——を、公開されている一次資料の原文にあたりながら整理します。自社が今どう見られているのかを知ることは、次の融資の準備そのものです。
※ この記事は令和8年9月12日現在の法令・公表情報にもとづいています。個別の判断は金融機関ごとに異なりますので、実際の取扱いは取引金融機関にご確認ください。
この連載(全10回)の構成
1. 債務者区分とは——銀行が融資先を6段階に分ける仕組み
銀行は、決算書を受け取ると、その会社を返済能力の程度に応じたグループに分類します。これを債務者区分といいます。日常会話で「銀行の格付」と呼ばれるものの土台にあたる考え方です。
区分は、次の6段階です(要管理先は要注意先の中の一部です)。
この区分が、会社にとってなぜ重要なのか。理由は単純で、銀行は区分ごとに、貸倒れに備えて積む引当金の率を変えているからです。区分が下がるほど銀行のコストが増えるため、金利や融資の可否に直接はね返ります。
つまり債務者区分は、社長から見れば「次の融資の入口の広さ」そのものです。
2. 検査マニュアルは2019年に廃止された。それでも読む価値がある理由
この6区分は、かつて金融庁が公表していた「金融検査マニュアル(預金等受入金融機関に係る検査マニュアル)」の別表に定められていたものです。
そして重要な事実として、この検査マニュアルは令和元年(2019年)12月18日に廃止されています。金融庁のサイトにも「これらの文書は令和元年12月18日に廃止しました」と明記されています。
「では、もう関係ないのでは?」と思われるかもしれません。ところが、同じ日に金融庁が公表した後継文書には、こう書かれています。
本文書では、金融検査マニュアル別表に基づいて定着している現状の実務を否定せず、現在の債務者区分を出発点に、現行の会計基準に沿って、金融機関が自らの融資方針や債務者の実態等を踏まえ、認識している信用リスクをより的確に引当に反映するための見積りの道筋を示している
(金融庁「検査マニュアル廃止後の融資に関する検査・監督の考え方と進め方」令和元年12月)
「現状の実務を否定せず、現在の債務者区分を出発点に」——ここが肝心なところです。廃止されたのは「全国一律のチェックリストで検査する」というやり方であって、債務者区分という枠組みそのものが消えたわけではありません。
| 廃止前 | 廃止後(現在) | |
|---|---|---|
| 基準 | 検査マニュアルという全国共通の手引書 | 各金融機関が自らの経営理念・融資方針に即して判断 |
| 債務者区分 | マニュアル別表に定義 | 引き続き「出発点」として使われている |
| 見る情報 | 過去の実績(決算書)が中心 | 過去に加え、対話で把握した将来を見据えた信用リスク |
| 中小企業の扱い | 別冊〔中小企業融資編〕で配慮 | 実態把握と対話をさらに重視 |
したがって、現在の実務は「マニュアルの考え方を土台にしつつ、銀行ごとに個性が出る」という状態にあると理解しておくのが実際的です。以下で紹介する原文も、そのまま現在の基準というより、銀行が何を見ているかを知るための最良の公開資料として読んでください。
3. 銀行員は、決算書をこの順番で見ている
区分の話に入る前に、実際の現場の話をします。銀行の担当者は、決算書を受け取って最初のページから順に読んでいくわけではありません。見る場所と順番がだいたい決まっています。
以下は法令や金融庁の文書に定められたものではなく、融資実務の解説書に共通して挙げられる見方です。ただ、順番を知っておくと「どこを整えておけばよいか」がはっきりします。
実務でよく語られる水準の目安は、次のとおりです。いずれも公式に定められた基準ではなく、業種によっても大きく変わりますので、幅のある目安として受け取ってください。
| 見る項目 | よく挙げられる目安 |
|---|---|
| 純資産 | プラスであること(債務超過でないこと) |
| 借入金 | 平均月商のおおむね6か月分程度までが一つの区切り。10か月分を超えると重く見られやすい |
| 現預金 | 最低でも月商1か月分は手元にあること |
| 簡易キャッシュフロー | 当期純利益+減価償却費 > 年間の返済額であること |
4つ目が特に重要です。利益が出ていても、返済額のほうが大きければ資金は減っていきます。 銀行が最終的に見ているのは、この一行です。
5番目の「勘定科目内訳明細書」が本番
見落とされがちですが、実態がいちばん表れるのは、決算書の後ろに付いている勘定科目内訳明細書です。銀行は、ここで資産の中身を一つずつ確認します。
| 科目 | なぜ気にされるのか |
|---|---|
| 仮払金・立替金 | 中身を説明できないと、実態のない資産として資産から差し引かれやすい |
| 役員貸付金(社長への貸付金) | 回収見込みが立たないとみなされやすく、実態では資産から落とされる。資金の使いみちそのものを疑われることもある |
| 棚卸資産(在庫) | 月商に比べて多すぎると、売れ残りの滞留在庫や、利益を大きく見せるための水増しを疑われる |
| 売掛金 | 月商や回収サイトに比べて大きいと、回収不能分や売上の前倒し計上を疑われる |
| 現金(手元現金) | 帳簿上の現金が不自然に多いと、実在しないと判断されやすい |
| 交際費 | 前期から大きく増えていると、経費管理の緩さと受け取られることがある |
大切なのは、これらが「悪い科目」なのではないということです。分かれ目は、中身を説明できるかどうかです。仮払金でも、何のための立替でいつ精算されるのかが言えれば問題になりません。逆に、毎月きちんと精算していない状態が続くと、説明のしようがなくなります。
4. 決算書の数字は、そのまま使われるわけではない
社長が最も誤解しやすいのがここです。銀行は、提出された決算書の数字をそのまま使って区分を決めているわけではありません。実態に合わせて数字を直してから判断します。これを実務では「実態バランスシート」「実態貸借対照表」などと呼びます。
代表的な修正は次のとおりです。
| 項目 | 実態の見方 |
|---|---|
| 社長・親族からの借入金 | 返済を求められないものは、自己資本に近いものとして扱われることがある |
| 社長への貸付金・未収入金 | 回収できない部分は、自己資本から差し引かれる |
| 長期滞留している売掛金 | 回収可能性を検討し、不良分は資産から落とす |
| 不良在庫・架空在庫 | 実際に売れる価格まで評価を下げる |
| 土地・有価証券の含み損益 | 時価との差額を反映する |
| 減価償却の未実施 | 本来計上すべき償却費を反映する |
このうち、中小企業でとりわけ影響が大きいのが社長からの借入金です。金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕には、こう書かれています。
(1)企業の実態的な財務内容 代表者等からの借入金等については、原則として、これらを当該企業の自己資本相当額に加味することができるものとする。 なお、代表者等が返済を要求することが明らかとなっている場合には、この限りではない。 また、当該企業に代表者等への貸付金や未収金等がある場合には、その回収可能性を検討し回収不能額がある場合には当該企業の自己資本相当額から減額する。
(金融庁「金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕」平成27年1月)
会社の運転資金を社長のポケットマネーで回している——中小企業ではごく普通の光景ですが、この一文があることで、帳簿上は債務超過でも、実態では債務超過ではないと判断される余地が生まれます。
実務上の注意点が2つあります。
1つは、社長への貸付金は逆に効くということです。「社長が会社からお金を借りている」状態は、実態では自己資本のマイナス要因として扱われます。役員貸付金は税務上も認定利息の問題があり、放置しないほうがよい代表格です。
もう1つは、社長からの借入金を安易に資本金へ振り替えないことです。債務の資本への振替(デット・エクイティ・スワップ)は、法人税の債務消滅益や、資本金の額が増えることによる税制上の不利(中小企業向け特例の適用可否、外形標準課税、均等割など)につながる場合があります。実態で評価してもらえるのであれば、無理に資本金を動かさないという判断も十分あり得ます。
5. 赤字でも「正常先」と判断してよい場合がある
ここが冒頭の思い込みに直結する部分です。検査マニュアルの別表には、赤字企業について次の記載があります。
ロ.赤字企業の場合、以下の債務者については、債務者区分を正常先と判断して差し支えないものとする。 (イ)赤字の原因が固定資産の売却損など一過性のものであり、短期間に黒字化することが確実と見込まれる債務者。 (ロ)中小・零細企業で赤字となっている債務者で、返済能力について特に問題がないと認められる債務者。
(金融庁「金融検査マニュアル(預金等受入金融機関に係る検査マニュアル)」別表1)
さらに別冊には、中小企業の特性として、**「総じて景気の影響を受けやすく、一時的な収益悪化により赤字に陥りやすい」「自己資本が大企業に比べて小さいため、一時的な要因により債務超過に陥りやすい」**という前置きが置かれたうえで、こう続きます。
赤字や債務超過が生じていることや、貸出条件の変更が行われているといった表面的な現象のみをもって、債務者区分を判断することは適当ではない。
つまり、赤字イコール格下げではありません。分かれ目は「その赤字が何によるものか」「返済原資は確保できているか」です。
社長への報酬や家賃で赤字になっている場合
中小企業でよくあるのが、社長への役員報酬や地代家賃を払った結果として赤字になっているケースです。別冊にはこの点も明示されています。
イ.例えば、企業が赤字で返済能力がないと認められる場合であっても、代表者等への報酬や家賃等の支払いから赤字となり、金融機関への返済資金を代表者等から調達している場合があるので、赤字の要因や返済状況、返済原資の状況を確認する。
会社と社長を一体で見れば黒字、という説明が通り得る、ということです。これは決算書を出すだけでは伝わりません。説明する材料を用意して、こちらから示す必要がある部分です。
創業赤字には、具体的な数値の目安がある
創業まもない会社の赤字については、めずらしく具体的な数字が示されています。
創業赤字で当初事業計画と大幅な乖離がない債務者は、正常先と判断して差し支えないものとする。(中略)具体的には、黒字化する期間が原則として概ね5年以内となっており、かつ、売上高等及び当期利益が事業計画に比して概ね7割以上確保されている債務者をいう。
この一文は、創業計画書を書くときの実務的な指針になります。
- 黒字化までの期間は、概ね5年以内に収まる計画にする
- 提出した計画に対し、実績が7割を下回らないことが一つの目安になる
- したがって、背伸びした売上計画は後で自分を苦しめる
なお、同じ箇所には「本基準は、あくまでも事業計画の合理性、実現可能性を検証するための目安であり、(中略)機械的・画一的に適用してはならない」という注意書きも付いています。達成できなかったら即アウト、という性質の数字ではありません。
創業時の資金調達そのものについては、創業融資の受け方|日本政策金融公庫と板橋区の創業支援融資もあわせてご覧ください。
6. 社長個人の資産・収入まで見られている
中小企業の場合、会社と社長は経理上も資産上も明確に分かれていないことが多い——別冊はその前提に立っています。したがって、社長個人の状況も返済能力に加味されるという考え方が取られています。
ハ.代表者等の預金や有価証券等の流動資産及び不動産(処分可能見込額)等の固定資産については、返済能力として加味することができる。 なお、その場合に、代表者等に係る借入金がある場合にはその額を控除する。(また、代表者の第三者に対する保証債務の有無についても勘案する。)
ここから分かる実務上のポイントは、次の3点です。
- 社長個人の預金・不動産はプラスに働き得る。会社の数字だけで判断されるわけではありません
- 社長個人の住宅ローンや他社の連帯保証はマイナスに働く。個人の借入も差し引かれます
- 「代表者等」には社長の家族・親族、社長が経営する関係会社も含まれるとされています
なお、別冊は同じ箇所で、経営者保証に関するガイドラインを踏まえる必要があることにも触れています。会社と個人の一体性を解消していく方向(経営者保証を外す方向)と、一体で見て評価してもらう方向は、実は逆を向いています。どちらを目指すかは、会社の状況と社長の意向によって戦略が変わるところで、顧問税理士と相談して決めるべき論点です。
7. 数字以外も見られている——技術力・販売力・経営者の資質
債務者区分は財務指標だけで決まるものではありません。別冊は、財務以外の要素について、かなり具体的に列挙しています。
| 見られる項目 | 具体例(別冊の記載より) |
|---|---|
| 企業の技術力・販売力 | 特許権・実用新案権・商標権・著作権などを背景とした新規受注の状況や見込み/新商品・サービスの開発や販売状況を踏まえた事業計画書/業界内での評判を示すマスコミ記事/今後の市場規模や業界内シェアの拡大動向/販売先・仕入先の状況、同業者と比べた販売条件・仕入条件の優位性 |
| 経営者の資質 | 過去の約定返済履歴などの取引実績/経営改善に対する取組み姿勢/財務諸表など計算書類の質の向上への取組み状況/ISO等の資格取得状況/人材育成への取組み姿勢/後継者の存在 |
太字にした2点に注目してください。
**「計算書類の質の向上への取組み状況」**が、経営者の資質を測る項目として明記されています。毎月きちんと試算表を締めているか、決算だけまとめて処理していないか——こうした日常の積み重ねが、評価項目として公式文書に書かれているということです。
**「後継者の存在」**も同様です。事業承継の準備は、融資の評価にもつながります。
また、金融庁は金融機関の現場職員向けに『業種別支援の着眼点』という研修教材を公表しており、建設業・飲食業・小売業・卸売業・運送業・製造業・サービス業・医療業・介護業・宿泊業の10業種について、業種ごとの見方をまとめています。令和8年3月には、**資金使途別に何を見るかをまとめた「逆引き着眼点」**も追加されました。
これは本来、銀行員が読む資料です。自社の業種のページを社長が読んでおくと、面談で何を聞かれるかがかなり予測できます。 一般に公開されており、どなたでもダウンロードできます(末尾にリンクを載せています)。
8. リスケ(条件変更)をしたら、即アウトではない
返済が苦しくなったときの条件変更(リスケジュール)は、「一度やったら二度と借りられない」と恐れられがちです。実際には、そこまで単純ではありません。
まず用語の整理です。条件変更をした債権が「貸出条件緩和債権」に該当すると、その会社は要管理先という扱いになり、区分が一段下がります。貸出条件緩和債権は、銀行法施行規則で次のように定義されています。
債務者の経営再建又は支援を図ることを目的として、金利の減免、利息の支払猶予、元本の返済猶予、債権放棄その他の債務者に有利となる取決めを行った貸出金
(銀行法施行規則第19条の2第1項第五号ロ(4)。金融検査マニュアル別冊より引用)
ポイントは、すべての条件変更がこれに当たるわけではないということです。別冊は、次の点を挙げています。
- 正常運転資金のための手形の書換えは該当しない。もともと支援を目的とした期限延長ではないため
- 担保や信用保証協会の保証で100%保全されている場合は、原則として該当しないと判断して差し支えない(調達コストを下回る金利の場合を除く)
- 経営再建計画を策定していなくても、条件変更の日から最長1年以内に策定する見込みがあるときは、その1年間は該当しないと判断して差し支えない
3つ目の「策定する見込み」については、別冊に定義まで置かれています。
銀行と債務者との間で合意には至っていないが、債務者の経営再建のための資源等(例えば、売却可能な資産、削減可能な経費、新商品の開発計画、販路拡大の見込み)が存在することを確認でき、かつ、債務者に経営再建計画を策定する意思がある場合をいう。
「売却できる資産」「削減できる経費」「新商品の計画」「販路拡大の見込み」——このうち一つでも具体的に示せるかどうかが、実務上の分かれ目になります。逆にいえば、何も示さないまま条件変更だけを申し込むと、評価は下がりやすいということです。
計画どおりに進まなかったときも、機械的には判断されない
別冊には、進捗が計画を下回った場合の扱いも書かれています。
中小・零細企業等の場合、必ずしも精緻な経営改善計画等を作成できないことから、景気動向等により、経営改善計画等の進捗状況が計画を下回る(売上高等及び当期利益が事業計画に比して概ね8割に満たない)場合がある。 その際における債務者区分の検証においては、経営改善計画等の進捗状況のみをもって機械的・画一的に判断するのではなく、計画を下回った要因について分析するとともに、今後の経営改善の見通し等を検討することが必要である。 なお、(中略)キャッシュフローの見通しをより重視することが適当である。
ここで「概ね8割」という目安が出てきます。創業赤字の7割とあわせて、覚えておくと計画づくりの感覚がつかめます。
そして最後の一文——利益よりキャッシュフローの見通しを重視する——は、この記事全体を通じて最も実務的な示唆かもしれません。銀行が最終的に見ているのは、利益の額そのものではなく、返済に回せるお金がいくら残るかです。
9. 経営改善計画の「合格ライン」は公開されている
業績が悪化した会社が銀行に出す経営改善計画。その計画が「合理的で実現可能性が高い」と認められるための要件も、検査マニュアルの別表に示されています。実務では「合実計画」と呼ばれるものです。
| 要件 | 内容 |
|---|---|
| 計画期間 | 原則として概ね5年以内。ただし、5年を超え概ね10年以内の場合でも、策定後の進捗が概ね計画どおり(売上高等および当期利益が計画比おおむね8割以上)で、今後も計画どおりに推移すると認められる場合を含む |
| 到達点 | 計画期間終了後の債務者区分が、原則として正常先となる計画であること。ただし、金融機関の再建支援を要せず自助努力で事業を継続できる状態になるなら、要注意先でも差し支えない |
| 金融機関の合意 | すべての取引金融機関等において、計画に基づく支援を行うことが正式な内部手続を経て合意され、文書等で確認できること(1行または一部の金融機関の支援で再建可能な場合は、その金融機関の合意で足りる) |
| 支援の内容 | 金融機関の支援が金利減免・融資残高維持等にとどまり、債権放棄や現金贈与などの資金提供を伴わないこと |
一方で別冊は、中小企業について**「大企業の場合と同様な大部で精緻な経営改善計画等を策定できない場合がある」と認めたうえで、計画がなくても、今後の資産売却予定・役員報酬や諸経費の削減予定・新商品の開発計画・収支改善計画といった具体的な方策**を確認して判断すべきだとしています。
立派な冊子は要りません。求められているのは「何をいくら、いつまでに」が具体的に書かれた数枚の紙だということです。
計画書で説得力を失う書き方
一方で、枚数を増やしても評価につながらない書き方があります。融資実務の解説書で共通して指摘されているのは、次のようなものです。
- 数字だけの計画。売上や利益の数値表はあるが、それをどう達成するかの施策と行動計画がない
- 抽象的なスローガンだけ。「顧客拡大」「全員営業」「◯◯の徹底」といった言葉が並ぶが、具体策がない
- 前後がつながっていない。目指す姿・数値目標・施策・行動計画がそれぞれ独立していて、因果が見えない
- 年間目標を12等分しただけの月別計画。季節変動のある業種では、この時点で実態と合わないことが分かってしまう
- 期日と数値が入っていない。後から進捗を検証できない書き方になっている
- 資金繰り表に、確定していない入金予定を入れる。これは一度でも崩れると、信頼の回復に時間がかかります
裏を返せば、「誰が・何を・いつまでに・いくら」が書いてあり、月別の数字が季節の実態に合っている計画であれば、枚数は多くなくてよい、ということです。
10. 評価は、決算書を出した日だけで決まるわけではない
ここまで決算書の話を中心にしてきましたが、実務でおそらく最も差がつくのは、決算書を出していない残りの11か月に何をしているかです。
融資実務の解説書では、次のような資料を、求められる前に自分から出すことが共通して勧められています。
| 資料 | 頻度の目安 | 出し方のポイント |
|---|---|---|
| 月次試算表 | 毎月(翌月中) | 完璧さより早さ。「毎月数字を把握している会社」という事実そのものが評価になる |
| 資金繰り表 | 毎月〜半期に1回 | 過去の実績と、これから3か月〜1年先の予定を横に並べる。資金が細る前に共有する |
| 決算書 | 年1回・確定後すぐ | 郵送で済ませず持参し、可能なら支店長との面談の場をつくる。前期の要因と今期の見通しを自分の言葉で説明する |
| 計画の進捗報告 | 四半期ごとなど | 計画とのズレを隠さず、ズレた理由と打ち手をセットで伝える |
ここで、第7節でご紹介した「経営者の資質」の評価項目を思い出してください。そこには**「財務諸表など計算書類の質の向上への取組み状況」**が挙げられていました。
毎月の試算表を翌月中に締めて、聞かれる前に出す。 これは気の利いた交渉術ではなく、公式文書に書かれている評価項目を、そのまま実行していることにほかなりません。
当事務所が毎月の巡回監査にこだわっているのは、この一点のためでもあります。決算のときにまとめて1年分を処理する形では、そもそも毎月出す試算表が存在しません。
11. 2026年5月、融資の前提が一つ増えました
最後に、比較的新しい動きに触れておきます。
令和8年(2026年)5月25日、「事業性融資の推進等に関する法律」が施行されました。 この法律により、「企業価値担保権」という新しい担保が使えるようになっています。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 担保の対象 | 個別の不動産ではなく、会社の総財産(同法7条) |
| 公示 | 商業登記簿に登記される(同法15条) |
| ねらい | 不動産担保や経営者保証に過度に依存せず、事業の将来性にもとづく融資を後押しすること |
| 想定される場面 | 有形資産に乏しいスタートアップ、地域の中小・中堅企業の設備投資、事業再生・事業承継、M&Aなど |
| 会社側の義務 | 融資判断の前提(事業計画等)を超える財産処分(事業譲渡等)をする際は、担保権者と事前の協議・同意が必要(同法20条) |
金融庁の資料には、有形資産が乏しい技術系スタートアップや、「不動産の担保評価が低いため大規模改装の融資が従来は困難だったが、長年の顧客基盤・ブランド力やビジネスプランを評価して融資が行われる」地元の料亭といった例が挙げられています。
ただし、現時点で中小企業がすぐに使える万能の制度ではありません。金融庁自身が公表しているFAQ等から、次の点は押さえておく必要があります。
- 想定される使い方は、既存の借入をすべて借り換えて行うか、借入のない会社への融資という類型とされています。既存の融資を残したまま追加で使う、という形は基本的に想定されていません
- 「企業価値」は将来見通しなど主観に大きく依存するため、銀行の引当の計算上は「一般担保」としては扱えないとされています。不動産担保ほど銀行のリスクが軽くなるわけではありません
- 採用するかどうかは各金融機関の経営判断であり、すべての銀行が取り扱うわけではありません
それでも、方向性ははっきりしています。「担保と保証」から「事業の中身と将来のキャッシュフロー」へ、という流れです。そしてその中身を伝える手段は、結局のところ数字のそろった決算書と、根拠のある事業計画しかありません。
まとめ
- 銀行は融資先を正常先・要注意先(うち要管理先)・破綻懸念先・実質破綻先・破綻先の6段階に分けている。区分は引当金の率を通じて、金利や融資の可否に直結する
- 検査マニュアルは2019年12月18日に廃止されたが、金融庁は「現状の実務を否定せず、現在の債務者区分を出発点に」としており、考え方の土台は残っている
- 銀行員が見る順番は、純資産 → 借入金 → 現預金 → 利益と簡易キャッシュフロー → 勘定科目内訳明細書。当期純利益+減価償却費が年間返済額を上回っているかが要
- 決算書の数字はそのまま使われない。社長からの借入金は自己資本相当に加味でき、社長への貸付金は差し引かれる
- 赤字イコール格下げではない。一過性の赤字、社長への報酬・家賃による赤字、創業赤字(黒字化まで概ね5年以内・計画比おおむね7割以上)には、それぞれ扱いの余地がある
- 社長個人の預金・不動産・収入も評価に加味される。一方で個人の借入や保証債務は差し引かれる
- 財務以外に、技術力・販売力のほか、計算書類の質の向上への取組みや後継者の存在まで見られている
- 条件変更は即アウトではない。正常運転資金の書換え、保証協会で全額保全されている場合などは該当せず、計画を1年以内に作る見込みがあれば猶予もある
- 経営改善計画の目安は概ね5年以内に正常先へ(進捗8割以上なら概ね10年以内も可)。立派な冊子ではなく、具体的な方策が書かれた数枚の紙で足りる。逆に、数字だけ・スローガンだけ・年間目標の12等分、といった書き方は説得力を失う
- 差がつくのは決算書を出していない残りの11か月。月次試算表と資金繰り表を、求められる前に出す
- 2026年5月25日、事業性融資推進法が施行。企業価値担保権という新しい選択肢が加わったが、使える場面は限られる
ここまで読んでいただくと分かるとおり、銀行に評価してもらうために必要なのは、特別な裏技ではなく、日々の数字を整えておくことです。毎月の試算表が締まっていること、社長と会社のお金の出入りが説明できること、そして「これからどうするか」を数字で示せること。この3つが、そのまま評価の材料になります。
次の第8回では、この区分が下がってしまったとき——業績が落ちたときの立て直しに使う経営改善計画書を扱います。
当事務所では、毎月の巡回監査で試算表を締めるところから、実態バランスシートの試算、金融機関に提出する事業計画・経営改善計画の作成支援、面談への同席まで対応しています(代表は事業会社での経理・連結納税の実務経験があり、数字の根拠づくりを得意としています)。また、税理士と行政書士を兼ねているため、許認可や事業承継まで含めてワンストップでご相談いただけます。
「うちは今、銀行からどう見られているのだろう」と気になった方は、板橋区・大山の当事務所まで無料相談をご利用ください。直近の決算書をお持ちいただければ、実態での見え方を一緒に確認します。