【数字で会社を動かす⑤】創業計画書の書き方|公庫の様式10欄を順に埋める
創業の資金を借りるとき、ほぼ必ず書くことになるのが創業計画書です。日本政策金融公庫(以下「公庫」)の様式は1枚。たった1枚ですが、ここで事業の中身がほぼ決まってしまいます。
そして創業計画書は、融資が下りた後に捨てる書類ではありません。 借りた後の1年間、自分が立てた数字とどれだけ差が出ているかを確かめる物差しになります。この連載で、銀行に見せる書類の最初に創業計画書を置いているのは、そのためです。
この記事では、公庫の様式にある10の欄を順に追いながら、それぞれ何を書けば伝わるのかを整理します。
※ この記事は令和8年9月12日現在の公表情報にもとづいています。様式は改訂されることがありますので、提出前に公庫の最新版をご確認ください。
この連載(全10回)の構成
1. 創業計画書は「10の欄」でできている
公庫の創業計画書(国民生活事業)は、次の10欄で構成されています。まず全体像をつかんでください。
| 欄 | 項目 | ひとことで言うと |
|---|---|---|
| 1 | 創業の動機 | なぜ、いま、これをやるのか |
| 2 | 経営者の略歴等 | あなたにできる理由 |
| 3 | 取扱商品・サービス | 何を売るのか、なぜ選ばれるのか |
| 4 | 従業員 | 人件費の裏づけ |
| 5 | 取引先・取引関係等 | お金がいつ入り、いつ出るのか |
| 6 | 関連企業 | 他に経営している会社はあるか |
| 7 | お借入の状況 | 個人の借入(住宅・車・カード等) |
| 8 | 必要な資金と調達方法 | いくら要り、どう用意するのか |
| 9 | 事業の見通し(月平均) | 創業当初と軌道に乗った後の損益 |
| 10 | 自由記述欄 | 補足・アピール・相談したいこと |
様式の余白は、決して大きくありません。限られた枠に、根拠のある言葉と数字を入れるのが創業計画書の作業です。
なお、様式の冒頭には「この書類に代えて、お客さまご自身が作成された計画書をご提出いただいても結構です」という注記があります。自作の計画書でもかまいませんが、初めての方はまず公庫の様式で書いてみることをおすすめします。 聞かれることが漏れなく並んでいるためです。
2. 1「創業の動機」——思いは書いてよい。ただし理由とセットで
最初の欄です。ここで身構えて、作文のようになってしまう方が多いところです。
審査担当者が知りたいのは、**「なぜ、いま、あなたが、これをやるのか」**という一点です。熱意そのものが評価されるわけではありませんが、熱意のない計画も続きません。次の3つを、それぞれ1〜2文で書ければ十分です。
- きっかけ:いつ、何を見て(何を経験して)そう思ったのか
- 勝算:その分野で自分がやれると考える理由
- タイミング:なぜ今なのか(物件が出た、取引先の内諾がある、資格を取った など)
避けたいのは、どの業種にも当てはまる書き方です。「地域に貢献したい」「お客様に喜んでいただきたい」だけでは、あなたである必要が伝わりません。
3. 2「経営者の略歴等」——同業での経験は、いちばん強い材料
様式には「略歴については、勤務先名だけではなく、担当業務や役職、身につけた技能等についても記載してください」と書かれています。指示どおりに書くのが正解です。
- 勤務先名だけの箇条書きで終わらせない
- これから始める事業と同じ分野での経験は、年数とともに具体的に
- 売上や人数など、管理していた規模がわかる数字を入れる(「3店舗・スタッフ12名を統括」など)
- 資格は「取得資格」欄へ。許認可が必要な業種は、次の3欄とあわせて整合を取る
この欄には**「過去の事業経験」**のチェック欄もあります。以前に事業をやっていて、やめた経験がある方は、隠さずに書いてください。書かずに後から分かるほうが、はるかに印象が悪くなります。
4. 3「取扱商品・サービス」——この欄が計画の心臓部
10欄のうち、内容量がいちばん多いのがここです。様式は次の4つに分かれています。
| 記入箇所 | 何を書くか |
|---|---|
| 取扱商品・サービスの内容 | 主力を3つまで。それぞれの**売上シェア(%)**を入れる |
| セールスポイント(自社の強み) | なぜ、よそではなくあなたから買うのか |
| 販売ターゲット・販売戦略(集客方法) | 誰に、どうやって知ってもらうのか |
| 競合・市場など自社を取り巻く状況 | 近隣の競合、客層、市場の動き |
ここで押さえておきたいのが、売上シェアの合計が100%になり、それが後ろの「9 事業の見通し」の売上高と噛み合っているかです。たとえば主力商品のシェアを70%と書いたなら、売上計画の7割はその商品で説明できなければなりません。
販売ターゲットは、絞ったほうが強くなります。 「幅広い年齢層に」と書くと、集客方法が書けなくなります。「大山駅周辺で働く30〜40代の会社員、平日夜の利用」と書ければ、そのまま集客方法(何をすればよいか)が決まります。
5. 4「従業員」と 5「取引先・取引関係等」——数字の裏づけになる欄
4 従業員
3か月以上の継続雇用を予定している人数を書きます。個人営業の場合、事業主本人は含めません。 家族従業員・パートの内訳も記入します。
ここの人数が、そのまま「9 事業の見通し」の人件費とつながります。人数と金額が合っていないと、その時点で計画の信頼度が下がります。
5 取引先・取引関係等
この欄は、地味に見えて資金繰りに直結する重要な欄です。販売先・仕入先・外注先ごとに、次を書きます。
- 所在地等(市区町村)、シェア(%)
- 掛取引の割合(%)
- 締日と回収日/支払日(「20日〆・翌月末回収」など)
- 手形がある場合はサイト
飲食・小売の方は、あわせて**営業時間・定休日・客単価・営業日数(月)**の欄があります。ここが第4回で扱う「売上=客数×客単価」の出発点になります。
なぜ締日と支払日を聞かれるのか。 回収より支払が先に来る商売では、売上が伸びるほど手元のお金が減っていくからです。この仕組みは第3回でくわしく扱います。
6. 7「お借入の状況」——個人の借入も必ず書く
住宅ローン、車のローン、教育ローン、カードローン。法人で申し込む場合も、代表者個人の借入を書きます。
ここを空欄にしたり少なめに書いたりしても、信用情報で確認されます。正直に書いたうえで、返済額を「9 事業の見通し」の生活費の前提に織り込んでおくのが、いちばん通りやすい書き方です。
第7回でくわしく触れますが、中小企業の融資判断では会社と社長個人が一体で見られます。個人の借入は評価上マイナスに働く一方、個人の預金や不動産はプラスに働きます。隠すことに利点はありません。
7. 8「必要な資金と調達方法」——左右の合計を必ず一致させる
この欄は左右に分かれています。
- 左(必要な資金):設備資金と運転資金に分けて、内訳と金額
- 右(調達の方法):自己資金、親・兄弟・知人等からの借入、日本政策金融公庫からの借入、他の金融機関等からの借入
左の合計と右の合計は必ず一致します。 当たり前のようですが、実際にはズレたまま提出されることがよくあります。
設備資金には見積書を付ける
様式には**「見積先」**を書く欄があります。設備資金は、見積書で金額を裏づけるのが原則です。「厨房設備一式 3,500千円(◯◯商会 見積書添付)」のように書きます。
運転資金は「何か月分か」で考える
運転資金の内訳は「商品仕入、経費支払資金など」です。ここは、開業してから売上代金が入ってくるまでの立ち上がり期間を、何か月分見込むかで決まります。飲食店なら3か月分、掛取引が中心の業種なら6か月分、といった考え方をします。
自己資金は「額」より「貯めた過程」
以前あった「自己資金が創業資金総額の10分の1以上」という形式的な要件は撤廃されています。ただし実務では、自己資金の額と、それをどう貯めたかが引き続き重視されます。
- 通帳でコツコツ積み上げた履歴は、それ自体が計画性の証拠になります
- 申込み直前に親族から入金された資金は、「見せ金」とみなされて評価されないことがあります
- 親族からの資金援助は、借入ではなく贈与であれば「自己資金」に近い扱いになることがあります。どちらなのかをはっきりさせておいてください
創業時の制度そのもの(公庫の新規開業・スタートアップ支援資金、板橋区の創業支援融資)については、創業融資の受け方|日本政策金融公庫と板橋区の創業支援融資で解説しています。
8. 9「事業の見通し(月平均)」——計画書の結論にあたる欄
いちばん埋めるのに時間がかかる欄です。創業当初と1年後又は軌道に乗った後の2列で、次を書きます。
| 行 | 内容 |
|---|---|
| 売上高 ① | 月平均の売上 |
| 売上原価 ②(仕入高) | 仕入・材料費 |
| 経費 ③ | 人件費/家賃/支払利息/その他 |
| 利益 | ① − ② − ③ |
そして欄の下に、こう書かれています。
売上高、売上原価(仕入高)、経費を計算された根拠をご記入ください。
この一行が、創業計画書でいちばん大事な指示です。 数字だけを書いて根拠欄を空けたまま出すと、面談はそこから始まります。
売上の根拠は「単価 × 数量」に分解する
書き方は業種によって変わりますが、原則は共通で、分解して積み上げることです。
| 業種 | 分解のしかた |
|---|---|
| 飲食業 | 客単価 × 席数 × 回転数 × 営業日数 |
| 小売業 | 客単価 × 1日あたり客数 × 営業日数 |
| 美容・サロン | 施術単価 × 1日あたり施術数 × 稼働日数 |
| 建設・製造 | 受注単価 × 月間受注件数 |
| ソフトウェア・受託 | 月額単価 × 契約社数(+スポット案件) |
ここで使う単価や回転数は、前職での実績、近隣店舗の状況、取引先からの内諾といった、外から確かめられる材料に結びつけてください。「がんばればこれくらい」は根拠になりません。
「創業当初」は低めに、「軌道に乗った後」との差に理由をつける
創業当初から満席の計画を書くと、かえって信頼されません。立ち上がりに時間がかかることは、審査側も知っています。
大事なのは、創業当初と軌道に乗った後で差がついている理由です。「口コミが回る」「リピーターが2割つく」「常連の法人客が付く」といった、時間の経過で何が変わるのかを書いてください。
経費で落としやすい項目
- 自分の生活費:個人事業なら、利益から生活費を引いて残るかを確認します。法人なら役員報酬として経費に入れます
- 社会保険料の会社負担分:法人は原則加入です。人件費のおよそ15%前後が上乗せされます
- 支払利息:今回借りる資金の利息です。様式にも独立した行があります
- 減価償却費:設備を買った場合に発生します。お金は出ていきませんが、利益を押し下げます
9. 黒字化までの年数には、実は目安がある
「創業して何年で黒字にすればよいのか」——これには、意外にも公的な手がかりがあります。
2019年に廃止された金融検査マニュアルには、創業まもない赤字企業の扱いについて、こう書かれていました。
創業赤字で当初事業計画と大幅な乖離がない債務者は、正常先と判断して差し支えないものとする。(中略)具体的には、黒字化する期間が原則として概ね5年以内となっており、かつ、売上高等及び当期利益が事業計画に比して概ね7割以上確保されている債務者をいう。
(金融庁「金融検査マニュアル(預金等受入金融機関に係る検査マニュアル)」別表1)
廃止された文書ですが、金融庁はその後も「現状の実務を否定せず、現在の債務者区分を出発点に」としています。実務の感覚を知る手がかりとしては、いまも有効です。
ここから読み取れることは2つあります。
- 黒字化までの期間は、概ね5年以内に収まる計画にする
- 提出した計画に対して、実績が7割を下回らないことが一つの目安
2つ目が特に重要です。背伸びした売上計画は、後から自分を苦しめます。 月商3,000千円と書いて実績が1,800千円なら6割です。最初から月商2,200千円と書いて実績1,800千円なら8割を超えます。同じ実績でも、評価が変わります。
なお、この基準には「機械的・画一的に適用してはならない」という注記も付いています。達成できなければ即アウト、という性質のものではありません。くわしくは第7回をご覧ください。
10. 提出前の自己点検リスト
書き上がったら、提出前に次を確認してください。面談で必ず聞かれるところです。
- 「8 必要な資金」の左右の合計が一致しているか
- 設備資金に見積書が添付されているか
- 「4 従業員」の人数と、「9 事業の見通し」の人件費が合っているか
- 「3 取扱商品・サービス」の売上シェアと、売上計画の構成が合っているか
- 売上高の根拠が「単価 × 数量」に分解されているか
- 創業当初と軌道に乗った後の差に、理由が書かれているか
- 利益から、借入の年間返済額と自分の生活費を払えるか
- 「7 お借入の状況」に、個人の借入がもれなく書かれているか
- 許認可が必要な業種で、申請の段階(申請中・登録済)が書かれているか
- 黒字化までの期間が、概ね5年以内に収まっているか
最後の項目とあわせて、**「借入の年間返済額 < 利益+減価償却費」**になっているかを必ず見てください。ここが逆転している計画は、借りた瞬間から資金が細っていきます。
まとめ
- 公庫の創業計画書は10欄。「あなたのこと」「売るもの・体制」「お金の出入り」「数字の見通し」の4つのかたまりでできている
- 審査で見られているのは各欄の一貫性。言葉で説明したことが、数字と噛み合っているか
- 「3 取扱商品・サービス」が心臓部。販売ターゲットは絞るほど強くなる
- 「5 取引先・取引関係等」の締日・回収日は、資金繰りに直結する重要な欄
- 「8 必要な資金と調達方法」は左右の合計を一致させ、設備資金は見積書で裏づける。自己資金は額より貯めた過程
- 「9 事業の見通し」の根拠欄が最重要。売上は単価 × 数量に分解して積み上げる
- 黒字化は概ね5年以内、実績は計画比おおむね7割以上が一つの目安。背伸びした計画は後で自分を苦しめる
創業計画書は、審査を通すための書類であると同時に、あなたが最初に作る経営計画です。次の第6回では、創業の次の段階——決算書という実績が積み上がったうえで臨む、2回目以降の融資で出す事業計画書を扱います。
当事務所では、創業計画書の作成支援から、公庫・金融機関との面談準備、設立手続(行政書士業務)、開業後の毎月の巡回監査まで一貫してお手伝いしています。代表は事業会社での経理経験があり、数字の根拠づくりを得意としています。板橋区・大山で創業をお考えの方は、無料相談をご利用ください。
参考(公的情報)
- 日本政策金融公庫:各種書式ダウンロード(国民生活事業)(創業計画書の様式・記入例5業種)
- 日本政策金融公庫:創業支援
- 金融庁:金融検査マニュアル関係(令和元年12月18日廃止)
- 板橋区:区内で創業する方のための融資制度(創業支援融資)
なお、会計の実務では、金額を千円単位で表すことがよくあります。この記事もそれに合わせています。1,000千円 = 100万円と読み替えてください。