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【数字で会社を動かす⑨】社長が毎月見る5つの数字|月次決算の経営者目線

毎月、顧問税理士から試算表が届く。けれども、どこを見ればいいのか分からないまま、綴じて棚にしまってしまう——これは非常によくあることです。

原因ははっきりしています。試算表は税務申告のための様式であって、経営判断のための様式ではないからです。勘定科目が何十行も並んだ表を渡されて「判断してください」と言われても、無理があります。

この記事では、社長が毎月見る数字を5つに絞る方法と、月次決算を経営に使うための3つのルールを整理します。

※ この記事は令和8年9月12日現在の公表情報にもとづいています。

この連載(全10回)の構成

回テーマ
第1回経営計画書とは何か|いつ必要になり、何の役に立つのか
第2回損益分岐点|いくら売れば赤字にならないか
第3回資金繰り表の作り方|黒字なのにお金が残らない理由
第4回経営計画書の作り方|利益から逆算して数字を組み立てる
第5回創業計画書の書き方|公庫の様式10欄を順に埋める
第6回銀行に出す事業計画書の書き方|2回目以降の融資
第7回債務者区分|銀行はあなたの会社をどう見ているか
第8回経営改善計画書|業績が落ちたときの立て直し
第9回(この記事)社長が毎月見る5つの数字
第10回予実管理|計画と実績のズレの見方と直し方

経理担当者の方へ:月次決算で「何を、どの順番で処理するか」という経理の実務手順は、別の連載記事【会計業務シリーズ④】月次決算と試算表の読み方で解説しています。この記事は、社長が経営判断をするために何を見るかに絞っています。

1. なぜ試算表は読みにくいのか

試算表の損益計算書は、費用を発生した場所で並べています。売上原価があり、その下に販売費及び一般管理費が科目順に並ぶ。この並びからは、「あといくら売れば黒字か」が読み取れません。

第2回で見たとおり、経営判断に必要なのは売上に連動するかどうかでの分類です。そこで使うのが、変動損益計算書という組み替えです。

試算表の損益計算書と変動損益計算書の違い 左は売上原価と販売費及び一般管理費で区切る通常の損益計算書、右は変動費と固定費で区切る変動損益計算書。右の形なら限界利益率と損益分岐点が読み取れることを示した図。 同じ数字でも、並べ替えると判断できるようになる 試算表のかたち(税務向け) 売上高       10,000 売上原価      5,500 売上総利益     4,500 販売費及び一般管理費 3,500 営業利益      1,000 → あといくら売れば黒字か、読み取れない 変動損益計算書(経営判断向け) 売上高       10,000 変動費       4,000 限界利益 6,000(限界利益率60%) 固定費       5,000 経常利益      1,000 → 損益分岐点 8,333、安全余裕率16.7%と即座に出る ※ 数字は説明のための例です(単位:千円)。
図1:試算表の損益計算書と変動損益計算書の違い

科目をひとつずつ眺めるのではなく、この5行を見る。これが出発点です。

2. 損益で見る5つの数字

社長が毎月見る数字は、5つ程度に絞るのがこつです。多くすると、結局どれも見なくなります。

#数字何が分かるか悪化したときに疑うこと
1売上高事業の規模客数が減ったのか、単価が下がったのか
2変動費売上に連動して出ていく金額仕入価格の上昇、歩留まりの悪化、外注の増加
3限界利益(率)売上のうち手元に残る割合値引きの常態化、商品構成の変化
4固定費売上に関係なく出ていく金額人員増、家賃・リースの追加、じわじわ増える経費
5経常利益最終的な成果上の4つのどれが原因か

そして、この5つから自動的に次の2つが出ます。

  • 限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上高
  • 損益分岐点比率 = 固定費 ÷ 限界利益 × 100(%)

この7つで、損益の状態はほぼ説明できます。 勘定科目の細かい増減を追うのは、この5つに異常が出た月だけで十分です。

「売上が落ちた」で止めない

5つの数字の使いかたで大事なのは、原因を一段掘ることです。売上が落ちたとき、掘り方は決まっています。

売上高 = 客数(数量)× 客単価(販売価格)

客数が減ったのか、単価が下がったのか。打つ手はまったく違います。

  • 客数が減った → 集客、営業活動、リピート率の問題
  • 単価が下がった → 値引き、商品構成の変化、安い商品ばかり売れている

この分解は、第10回の予実管理でそのまま使います。

3. 貸借対照表でも3つだけ見る

損益だけを見ていると、第3回で扱った「黒字なのにお金が残らない」状態に気づけません。貸借対照表からも3つ拾ってください。

#数字見るポイント
1現預金残高月商の何か月分あるか。最低でも1か月分は確保したい
2売掛金月商に比べて膨らんでいないか。回収が遅れている先はないか
3棚卸資産(在庫)増え続けていないか。増えた分だけ現金が寝ている

この3つは、第7回で触れたとおり、銀行が勘定科目内訳明細書でまさに確認している項目でもあります。毎月自分で見ておけば、決算のときに慌てることがなくなります。

月次でも、せめて売掛金の年齢表(いつの売上がまだ残っているか)と在庫の数量は押さえておきたいところです。 「今月は利益が出た」の裏で売掛金が1か月分増えていたら、お金は一切増えていません。

4. ルール1:翌月15日までに締める

月次決算でいちばん多い失敗は、精度を追いすぎて遅くなることです。

  • 目標は翌月10日〜15日まで
  • 意識の高い会社は翌月3日に締めています
  • 遅くとも翌月中には締める

なぜ速さが大事なのか。2か月前の数字を見て打てる手は、ほとんどないからです。6月の数字が8月末に出てきても、もう7月と8月が終わっています。

1円単位の正確さは、月次には要りません

年1回の決算・申告は、税額を確定させるので厳密さが必要です。しかし月次決算の目的は経営判断であり、必要なのは傾向がつかめる精度です。

  • 在庫は実地棚卸でなく、受払の記録からの概算でよい月があってよい
  • 経過勘定(前払・未払)は、金額が大きいものだけ拾う
  • 減価償却費は年額の12分の1で計上する
  • 賞与も年間見込額の12分の1を毎月引当てておく

多少のズレは、翌月に直せばよい。 それよりも「いま何が起きているか」を早く知るほうが、経営にとってはるかに価値があります。

5. ルール2:前年同月比ではなく、予算比で見る

多くの試算表には「前年同月比」が付いています。便利ではありますが、これだけでは判断できません。

前年同月比が教えてくれるのは「去年と比べてどうか」だけです。去年が悪ければ、比べて良くても意味がありません。去年の自社は、目指すべき水準ではないからです。

前年同月比と予算比の違い 前年同月比では前年より増えていれば良く見えるが、予算比で見ると計画に届いていないことが分かる、という比較を示した図。 同じ実績でも、何と比べるかで結論が変わる 前年同月比で見ると 前年同月 8,000千円 当月実績 8,800千円(+10%) →「好調」に見える 予算比で見ると 当月予算 10,000千円 実績 8,800千円 → 達成率88% 「前年より良い」ではなく「計画に対してどうか」で判断する
図2:前年同月比と予算比の違い

予算比で見るには、当然ながら予算(月次の経営計画)が必要です。ここが、この連載の前半(第1回〜第4回)とつながります。

  • 目標利益を決める(第4回)
  • 必要売上高を逆算する(第4回)
  • それを月別に割り振る(この記事)

月別に割り振るときは、12等分しない

年間目標を単純に12で割るのは、季節変動のある業種では最悪のやり方です。繁忙期は楽に達成でき、閑散期は必ず未達になり、どちらの月も判断の役に立ちません。

過去2〜3年の月別実績の構成比を使って割り振ってください。飲食・小売なら12月と1月、建設なら年度末、といった山谷が必ずあります。

あわせて、当月の予算比だけでなく期首からの累計予算比も見てください。単月のぶれに振り回されずに済みます。

6. ルール3:見た結果を、必ず行動に変える

数字を見るだけで終わると、翌月も同じ数字を見ることになります。月次決算は、次の行動を決めるためにあります。

そのために有効なのが、毎月決まった日に業績検討の場を持つことです。参加者は社長と幹部、そして会計の担当(当事務所の場合は巡回監査担当者)。

議題は、毎回同じ3つで十分です。

  1. 5つの数字は、予算に対してどうだったか(事実の確認)
  2. ズレの原因は何か(客数か単価か、変動費率か固定費か)
  3. 来月、誰が何をするか(期日と数値を入れる)

3つ目まで行かないと、意味がありません。 ここまでを毎月回す仕組みができている会社は、業績が落ちてもすぐに気づき、手を打てます。

第7回でご紹介したとおり、金融庁の文書には、経営者の資質を測る項目として**「財務諸表など計算書類の質の向上への取組み状況」**が挙げられています。毎月締めて、見て、手を打つ。この積み重ねは、銀行からの評価にも直結します。

7. 月次決算のチェックリスト

毎月、次を確認してください。

  • 前月分が、翌月15日までに締まっているか
  • 売上高・変動費・限界利益・固定費・経常利益の5つが並んだ表になっているか
  • 限界利益率と損益分岐点比率が出ているか
  • 当月予算比と、期首からの累計予算比が出ているか
  • 現預金残高が月商の何か月分か把握しているか
  • 売掛金が月商に比べて増えていないか
  • 在庫が増え続けていないか
  • 減価償却費・賞与引当を月割で計上しているか
  • ズレの原因を、客数と単価に分けて確かめたか
  • 来月の行動を、期日と数値を入れて決めたか

まとめ

  • 試算表が読みにくいのは、税務のための並びになっているから。変動損益計算書に組み替える
  • 社長が毎月見る数字は5つ——売上高/変動費/限界利益/固定費/経常利益。ここから限界利益率と損益分岐点比率が出る
  • 貸借対照表からは現預金・売掛金・在庫の3つ。ここは銀行も見ている
  • 翌月15日までに締める。月次に1円単位の正確さは不要。速さが価値
  • 前年同月比ではなく予算比で見る。ただし年間目標の12等分はしない。季節変動に合わせて割り振る
  • 見て終わりにせず、毎月同じ日に業績検討の場を持ち、来月の行動まで決める

次の第10回では、この「予算と実績のズレ」をどう分析し、どう直していくのか——予実管理の具体的な手順を扱います。

当事務所は毎月お伺いする巡回監査を基本にしており、その場で変動損益計算書・限界利益率・損益分岐点比率をご説明し、来月の打ち手までご一緒に考えます。同業の黒字企業平均(TKC経営指標BAST)との比較もお出しできます。板橋区・大山で「試算表を経営に使えていない」とお感じの方は、無料相談をご利用ください。

参考(公的情報)

なお、会計の実務では、金額を千円単位で表すことがよくあります。この記事もそれに合わせています。1,000千円 = 100万円と読み替えてください。

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