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【数字で会社を動かす②】損益分岐点|いくら売れば赤字にならないか・値上げの判断

「今月はいくら売れば赤字にならないのか」

社長がいちばん知りたい数字のひとつですが、損益計算書を眺めていても答えは出てきません。損益計算書は費用を発生した場所で分類しているだけで、売上に連動するかどうかでは分けていないからです。

この分け方を変えるだけで、「いくら売れば赤字にならないか」「値上げしたら何個売ればいいのか」が電卓で出せるようになります。それが損益分岐点の考え方です。

この回は、第4回「経営計画書の作り方」と深くつながっています。 経営計画の数字は、残すべき利益から逆算して作ります。そのときに使う「必要売上高 =(固定費 + 目標利益)÷ 限界利益率」という式は、この記事で扱う損益分岐点の考え方そのものです。ここを押さえておくと、第4回で計画の数字を自分で組み立てられるようになります。この記事は、第4回の土台にあたる回とお考えください。

※ この記事は令和8年9月12日現在の公表情報にもとづいています。

この連載(全10回)の構成

テーマ
第1回経営計画書とは何か|いつ必要になり、何の役に立つのか
第2回(この記事)損益分岐点
第3回資金繰り表の作り方|黒字なのにお金が残らない理由(近日公開)
第4回経営計画書の作り方|利益から逆算して数字を組み立てる(近日公開)
第5回創業計画書の書き方|公庫の様式10欄を順に埋める(近日公開)
第6回銀行に出す事業計画書の書き方|2回目以降の融資(近日公開)
第7回債務者区分|銀行はあなたの会社をどう見ているか(近日公開)
第8回経営改善計画書|業績が落ちたときの立て直し(近日公開)
第9回社長が毎月見る5つの数字|月次決算の経営者目線(近日公開)
第10回予実管理|計画と実績のズレの見方と直し方(近日公開)

1. 費用を「売上に連動するか」で2つに分ける

出発点はこれだけです。

区分性質代表例
変動費売上や生産量に比例して増減する材料費、商品仕入高、外注費、(業種により)運賃・販売手数料
固定費売上に関係なく毎月一定額が出ていく人件費、家賃、リース料、減価償却費、保険料、水道光熱費の基本料金

厳密に分けようとすると、どちらとも言い切れない費用が必ず出てきます。そこで実務では、割り切って分ける方法が広く使われています。

売上原価(あるいは「材料費・商品仕入高・外注費」の3科目)だけを変動費とし、残りの販売費及び一般管理費をすべて固定費とみなす

最初はこれで十分です。精度より、毎月続けられることのほうが大事だからです。

年に数回の費用は12か月にならす

賞与、決算賞与、年払いの保険料、固定資産税。これらを発生した月にそのまま乗せると、その月だけ大赤字に見えて判断を誤ります。年間見込額を12で割って、毎月均等に固定費へ入れておくのが実務的なやり方です。

2. 限界利益——「売上から変動費を引いた残り」

売上から変動費を引いた金額を限界利益といいます。粗利益とほぼ同じものと考えて差し支えありません。

限界利益 = 売上高 - 変動費

限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上高 × 100(%)

限界利益は、固定費を回収して、残りが利益になるお金です。この順番で考えるのが、損益分岐点の発想です。

この記事で使う例(以下、すべて同じ会社の数字です)

説明のため、次の会社を例に使います。この記事に出てくる数字は、最後まですべてこの1社のものです。

なお、会計の実務では、金額を千円単位で表すことがよくあります。この記事もそれに合わせています。1,000千円 = 100万円、100,000千円 = 1億円と読み替えてください。

項目金額・数値
年間売上高100,000千円
販売単価1,000円
年間販売数量100,000個
1個あたり変動費700円
年間の固定費24,000千円

手元の損益計算書を「変動損益計算書」に組み替える

いま社長の手元にあるのは、次の左側の形でしょう。これを右側に組み替えます。足し引きしている中身は同じで、区切る場所だけが違います。

損益計算書(いつもの形)変動損益計算書(組み替え後)金額計算
売上高売上高100,000千円1,000円 × 100,000個
売上原価変動費70,000千円700円 × 100,000個
売上総利益(粗利)限界利益(率30%)30,000千円100,000千円 - 70,000千円
販売費及び一般管理費固定費24,000千円年間の積み上げ
営業利益営業利益6,000千円30,000千円 - 24,000千円

左右の列は同じ1行に付いた2つの名前です。金額は1円も変わりません。

営業利益は左右で同じ6,000千円です。 変わったのは、途中の区切りの意味だけです。左の「売上総利益」は会計のルールで決まる区切りですが、右の「限界利益」は売上が1円増えたときに、いくら手元に残るかを表します。判断に使えるのは右のほうです。

なお、製造業のように売上原価のなかに工場の人件費や減価償却費が入っている場合は、その分を固定費へ移してください。たとえば売上原価78,000千円のうち8,000千円が労務費・減価償却費なら、変動費70,000千円・固定費24,000千円(労務費等8,000千円+販管費16,000千円)となり、右の表と同じ形になります。

売上から利益までの流れ 年間売上高100,000千円の会社を例に、売上高から変動費70,000千円を引いて限界利益30,000千円を求め、その限界利益から固定費24,000千円を回収した残り6,000千円が営業利益になるという構造を、3段の帯グラフで示した図。2段目の右端にある限界利益30,000千円の左右の端から、3段目の帯の左右の端へ向けて補助線が伸びており、3段目は限界利益の部分だけを横いっぱいに拡大したものであることを示しています。 売上 → 限界利益 → 利益 という順番で考える 売上高 100,000千円(単価1,000円 × 100,000個) 売上高 100,000千円 - 変動費 70,000千円(売上に比例) 限界利益率 30% 変動費 70,000千円 限界利益 30,000千円 固定費 24,000千円 営業利益 6,000千円 ※ 説明のための例です。3段目は、2段目の限界利益 30,000千円の中身(固定費と営業利益)です。
図1:売上から利益までの流れ

3. 損益分岐点売上高を出す

固定費をちょうど回収しきる売上高が、損益分岐点売上高です。

損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率

例の会社なら、24,000千円 ÷ 0.3 = 80,000千円。年に80,000千円売れば、利益はゼロ。それを超えた分の30%が利益になります。

損益計算書の形で確かめると、こうなります。

変動損益計算書損益分岐点計算実績計算
売上高80,000千円1,000円 × 80,000個100,000千円1,000円 × 100,000個
変動費56,000千円700円 × 80,000個70,000千円700円 × 100,000個
限界利益(30%)24,000千円80,000千円 - 56,000千円30,000千円100,000千円 - 70,000千円
固定費24,000千円24,000千円
営業利益0千円24,000千円 - 24,000千円6,000千円30,000千円 - 24,000千円

固定費24,000千円をちょうど回収しきる売上高が80,000千円だと分かります。そこから先は、売れた分の30%がそのまま利益になります。

損益分岐点を個数で言えば80,000個です。ここまでは固定費の回収に消え、80,001個目から利益が出はじめます。

目標利益から逆算する

「利益を年6,000千円出したい」という目標があるなら、こう計算します。

必要売上高 =(固定費 + 目標利益)÷ 限界利益率

(24,000千円+6,000千円)÷ 0.3 = 100,000千円。この1行が出せるだけで、営業目標の置き方が変わります。

電卓での手順(3分でできます)

  1. 直近の損益計算書を用意する
  2. 売上高を書き出す
  3. 売上原価(または材料費・仕入高・外注費)を合計する=変動費
  4. 限界利益率 =(売上高 − 変動費)÷ 売上高
  5. 販売費及び一般管理費の合計=固定費(賞与などは年額の12分の1を足す)
  6. 固定費 ÷ 限界利益率 = 損益分岐点売上高

4. 損益分岐点比率と安全余裕率——自社の余力を測る

損益分岐点売上高が出たら、実績の売上と比べます。

損益分岐点比率 = 損益分岐点売上高 ÷ 売上高 × 100(%)

安全余裕率 = 100% - 損益分岐点比率

安全余裕率は、売上が何%落ちるまで赤字にならないかを表します。例の会社なら、損益分岐点比率は80,000千円÷100,000千円=80%、安全余裕率は20%売上が2割落ちたところで赤字に転落するという意味です。

実務書でよく示される水準は、次のとおりです。公的に定められた基準ではありませんが、自社の位置を知る目安になります。

損益分岐点比率状態安全余裕率
60%未満きわめて優良40%超
60〜80%未満優良20〜40%
80〜90%未満健全。中小企業はまずここを目指す10〜20%
90〜100%未満損益分岐点すれすれ0〜10%
100%以上赤字
損益分岐点比率と安全余裕率 損益分岐点比率が90パーセントの会社は売上が10パーセント落ちると赤字になり、60パーセントの会社は40パーセント落ちても耐えられることを、帯の長さで比較した図。 同じ売上でも、耐えられる落ち込みはこれだけ違う 損益分岐点比率 90%の会社 損益分岐点売上高(固定費の回収に必要) 10% → 売上が10%落ちただけで赤字に転落します 損益分岐点比率 60%の会社 損益分岐点売上高 安全余裕率 40% → 売上が4割落ちても、まだ赤字になりません 安全余裕率は「不況に耐える体力」。中小企業はまず10%以上を目標に。
図2:損益分岐点比率と安全余裕率

この数字は、銀行との会話でもそのまま使えます。 「売上が2割落ちても赤字にならない体質です」と言えるかどうかは、定性評価に効いてきます。

5. 損益分岐点を下げる3つの方法

損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率 ですから、下げる方法は原理的に3つしかありません。

方法やること注意点
① 固定費を下げる家賃・リース・保険の見直し、遊休設備の処分削りすぎると売る力まで落ちる。人件費の削減は最後の手段
② 変動費を下げる仕入先の見直し、歩留まりの改善、外注の内製化品質低下は結局リピートを失う
③ 販売単価を上げる値上げ、高付加価値商品への構成転換数量減とのバランス。次章で試算します

②と③は、どちらも限界利益率を上げる打ち手です。そして中小企業では、③のほうが効きが早いことが多くあります。理由は次章で見ます。

6. 値上げと値下げ——必要な販売数量はどう変わるか

ここがこの記事でいちばんお伝えしたいところです。

商品1個あたりで考えます。

1個あたり限界利益 M = 販売単価 P - 1個あたり変動費 V

必要販売数量 Q =(固定費 F + 目標利益 G)÷ M

単価を動かすと、Mが変わります。 そしてMは分母にあるので、必要な数量Qは大きく振れます。

試算その1:数量が変わらなかった場合、利益はどうなるか

例の会社(単価1,000円・100,000個・1個あたり変動費700円・固定費24,000千円)で、販売数量は変わらないまま単価だけを10%動かしたときの損益計算書です。

変動損益計算書10%値下げ変更なし10%値上げ
販売単価900円1,000円1,100円
販売数量100,000個100,000個100,000個
売上高90,000千円
(900円 × 100,000個)
100,000千円
(1,000円 × 100,000個)
110,000千円
(1,100円 × 100,000個)
変動費70,000千円
(700円 × 100,000個)
70,000千円
(700円 × 100,000個)
70,000千円
(700円 × 100,000個)
限界利益20,000千円30,000千円40,000千円
(限界利益率)(22.2%)(30.0%)(36.4%)
固定費24,000千円24,000千円24,000千円
営業利益△4,000千円6,000千円16,000千円

売上はたった10%しか動いていないのに、営業利益は赤字4,000千円から黒字16,000千円まで振れます。 変動費も固定費も1円も変わっていません。値下げした分・値上げした分が、そっくりそのまま利益に乗るからです。

試算その2:同じ利益を出すには、何個売る必要があるか

今度は逆に、営業利益6,000千円を確保するのに必要な販売数量を見ます。

10%値下げ変更なし10%値上げ
販売単価900円1,000円1,100円
1個あたり変動費700円700円700円
1個あたり限界利益200円300円400円
必要な限界利益(固定費24,000千円+利益6,000千円)30,000千円30,000千円30,000千円
必要販売数量150,000個
(30,000千円 ÷ 200円)
100,000個
(30,000千円 ÷ 300円)
75,000個
(30,000千円 ÷ 400円)
数量の変化+50%△25%
そのときの売上高135,000千円
(900円 × 150,000個)
100,000千円
(1,000円 × 100,000個)
82,500千円
(1,100円 × 75,000個)

たった10%の値下げで、同じ利益を出すのに1.5倍売らなければなりません。 逆に10%値上げすれば、売る数が25%減っても同じ利益が残ります。

売上高で見ると、さらにはっきりします。値下げした場合、同じ6,000千円の利益を取るために売上を35,000千円増やす必要があります。値上げした場合は、売上が17,500千円減っても同じ利益が残ります。

10パーセントの値上げ・値下げで必要な販売数量がどう変わるか 単価1000円、1個あたり変動費700円、固定費24,000千円の会社が営業利益6,000千円を確保する場合、10パーセント値下げすると必要数量が10万個から15万個に増え、10パーセント値上げすると7万5000個に減ることを棒の長さで比較した図。 単価を10%動かすと、必要な販売数量はこれだけ変わる 単価1,000円/1個あたり変動費700円/固定費24,000千円、営業利益6,000千円を確保する場合 10%値下げ(900円) 150,000個 必要(+50%) 変更なし(1,000円) 100,000個 10%値上げ(1,100円) 75,000個で足りる(△25%) 粗利率が低い商売ほど、値下げの影響は激しくなります。安易な値引きは体力を削ります。
図3:10%の値上げ・値下げで必要な販売数量がどう変わるか

この効果は、粗利率が低い商売ほど激しくなります。 1個あたり限界利益が小さいほど、そこから10%分を削られたときの打撃が大きいためです。

人件費や仕入価格が上がり続けている現在、中小企業にとっては数量を増やすより、単価を上げて限界利益額を確保するほうが現実的な場面が増えています。値上げは勇気の要る決断ですが、数字で見ると、値引きのほうがはるかに危ない賭けです。

値上げの前に確認すること

  • 自社の1個あたり限界利益がいくらか(これを知らずに値上げ幅は決められません)
  • 何%の数量減まで耐えられるか(上の表のように試算する)
  • 値上げの理由を、顧客に説明できる形にしてあるか
  • 主要取引先ごとに、単価と数量のどちらが効いているか

7. 数字の感覚は、体験すると身につく——戦略MG研修

ここまでの計算は、電卓があれば誰でもできます。それでも、いざ値上げを決断する場面になると、手が止まります。頭で分かることと、判断できることは別だからです。

当事務所では、戦略MG(マネジメントゲーム)研修を行っています。盤上でそれぞれが一社の社長になり、材料を仕入れ、値段を決めて売り、人を雇い、設備に投資し、毎期、自分の手で決算書を作るという研修です。

この研修で使うMQ会計は、この記事で扱った考え方と同じものです。売価をP、1個あたり原価をV、その差をM、数量をQと置くと、限界利益はMQ、固定費はF、利益はGとなり、会社の利益は次の一本の式で表せます。

MQ - F = G(限界利益 - 固定費 = 利益)

利益を増やす方法も、Pを上げる・Vを下げる・Qを増やす・Fを下げるの4つしかありません。第5節で「損益分岐点を下げる方法は3つだけ」と書いたことと、同じ話です。

盤上では、安く売って数量を取りにいった期に、忙しいだけで利益が残らない——ということが実際に起きます。この記事の試算を、自分の失敗として一度経験しておくと、値決めの判断が変わります。

戦略MG研修のご案内

8. 業種ごとの水準は「BAST」で確かめられる

自社の限界利益率や損益分岐点比率が高いのか低いのかは、同業と比べないと分かりません。

当事務所はTKC全国会に加入しており、**BAST(TKC経営指標)**を使って、同じ業種・同じ規模の黒字企業の平均値と比較することができます。「うちの粗利率は45%」と言われても判断できませんが、「同業の黒字企業平均が52%」と分かれば、そこが課題だと特定できます。

顧問先には、毎月の巡回監査のなかでこの比較をお出ししています。

まとめ

  • 費用を変動費(売上に比例)固定費(売上に無関係)に分ける。実務では売上原価だけを変動費とする割り切りで十分
  • 手元の損益計算書は、区切る場所を変えるだけで変動損益計算書になる。営業利益は変わらない
  • 賞与や年払いの費用は、年額の12分の1を毎月の固定費に入れてならす
  • 限界利益 = 売上高 − 変動費限界利益率 = 限界利益 ÷ 売上高
  • 損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率、目標利益があるなら**(固定費+目標利益)÷ 限界利益率**
  • 安全余裕率 = 100% − 損益分岐点比率。売上が何%落ちるまで耐えられるかを表す。まずは10%以上を目標に
  • 損益分岐点を下げる方法は固定費を下げる/変動費を下げる/単価を上げるの3つだけ
  • 数量が同じなら、10%の値下げで営業利益6,000千円が△4,000千円の赤字に、10%の値上げで16,000千円になる(例の条件の場合)
  • 同じ利益を確保するなら、10%の値下げは必要数量を1.5倍に、10%の値上げは必要数量を25%減らす。粗利率が低いほど値下げの打撃は大きい

損益分岐点は、一度計算したら終わりではありません。毎月の試算表から、毎月出せるようにしておくことで、はじめて判断に使えるようになります。次の第3回では、その利益とお金のズレ——「黒字なのにお金が残らない」という現象を、資金繰り表で見ていきます。

当事務所では、月次の試算表を変動損益計算書(変動費と固定費に組み替えた損益計算書)の形でお出しし、損益分岐点比率と安全余裕率を毎月お伝えしています。値上げの検討、商品構成の見直しもご相談ください。板橋区・大山の無料相談をご利用いただけます。

参考(公的情報)

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