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【数字で会社を動かす⑧】経営改善計画書|業績が落ちたときの立て直し

業績が落ち、返済が重くなってきた。手元の資金も薄い。——このとき社長が最初にすべきことは、返済が遅れる前に動くことです。

延滞してから相談に行くのと、延滞する前に計画を持って相談に行くのとでは、扱いがまったく違います。そして、そこで必要になるのが経営改善計画書です。

この記事では、経営改善計画書に何を書くのか、どういう計画なら金融機関に受け入れられるのか、そして費用の3分の2が補助される公的な制度までを整理します。

※ この記事は令和8年9月12日現在の法令・公表情報にもとづいています。補助制度の内容は改定されますので、利用の際は最新の要件をご確認ください。

この連載(全10回)の構成

回テーマ
第1回経営計画書とは何か|いつ必要になり、何の役に立つのか
第2回損益分岐点|いくら売れば赤字にならないか
第3回資金繰り表の作り方|黒字なのにお金が残らない理由
第4回経営計画書の作り方|利益から逆算して数字を組み立てる
第5回創業計画書の書き方|公庫の様式10欄を順に埋める
第6回銀行に出す事業計画書の書き方|2回目以降の融資
第7回債務者区分|銀行はあなたの会社をどう見ているか
第8回(この記事)経営改善計画書
第9回社長が毎月見る5つの数字|月次決算の経営者目線
第10回予実管理|計画と実績のズレの見方と直し方

1. リスケは「終わり」ではない

条件変更(リスケジュール)を、経営の失敗のように受け止める方がいます。ですが第7回で見たとおり、条件変更をしたからといって、直ちに評価が決まるわけではありません。

金融検査マニュアル別冊には、次のように書かれていました。

赤字や債務超過が生じていることや、貸出条件の変更が行われているといった表面的な現象のみをもって、債務者区分を判断することは適当ではない。

(金融庁「金融検査マニュアル別冊〔中小企業融資編〕」平成27年1月)

さらに同じ別冊には、経営再建計画を策定していなくても、条件変更の日から最長1年以内に策定する見込みがあるときは、その1年間は貸出条件緩和債権に該当しないと判断して差し支えないという記載があります。

そして「策定する見込み」の定義も置かれています。

銀行と債務者との間で合意には至っていないが、債務者の経営再建のための資源等(例えば、売却可能な資産、削減可能な経費、新商品の開発計画、販路拡大の見込み)が存在することを確認でき、かつ、債務者に経営再建計画を策定する意思がある場合をいう。

この4つのうち、ひとつでも具体的に示せるかどうか。 ここが実務上の分かれ目です。逆に、何も示さないまま返済猶予だけを申し込むと、評価は下がりやすくなります。

2. 何より、早く動くこと

相談のタイミングで選べる手段が変わる 資金に余裕があるうちは借換えや期間延長など選べる手段が多く、延滞後は選択肢が大きく狭まることを時間軸で示した図。 早いほど、選べる手段が多い 資金に余裕がある段階 月商1か月分以上ある 資金が細ってきた段階 数か月先に不足が見える 延滞が発生した後 返済が遅れている ・追加融資 ・借換えでまとめ直す ・返済期間の延長 ・早期経営改善計画 ・条件変更(リスケ) ・経営改善計画の策定 ・中小企業活性化協議会 (追加融資は難しくなる) ・選べる手段が大きく減る ・信用情報にも影響 ・事業再生/廃業の検討 資金繰り表(第3回)で3か月以上前に気づくことが、選択肢を残す唯一の方法です
図1:相談のタイミングで選べる手段が変わる

第3回で資金繰り表を毎月作る意味は、ここにあります。資金が薄くなる月を3か月以上前に見つけられれば、まだ手段が残っています。

3. 経営改善計画書に書くこと

計画書の様式は支援機関や金融機関によって異なりますが、求められる中身はおおむね共通しています。中小企業庁の制度で求められる構成をもとに整理すると、次のようになります。

項目書く内容
ビジネスモデル俯瞰図誰から仕入れ、何を作り、誰に売っているか。商流とお金の流れを1枚の図に
現状分析(窮境原因)なぜ今の状態になったのか。外部環境と内部要因を分けて
経営課題と解決の方針分析から導かれる課題と、その方向性
アクションプラン誰が・何を・いつまでに・どれだけ。数値と期日を必ず入れる
損益計画(3〜5年)アクションプランの効果を金額に落とす。初年度は月別に
資金繰り表(実績・計画)過去の実績分析と、将来の資金計画
実態貸借対照表資産を実態価値に引き直したもの(第7回参照)
返済計画金融機関ごとの残高と、計画期間中の返済額

「窮境原因」をごまかさない

いちばん重要で、いちばん書きにくいのがここです。「コロナの影響で」「原材料が高騰したため」だけで終わる計画は、通りません。

同じ環境で黒字の同業者がいる以上、外部環境は原因の一部にすぎません。内部の要因——値決めをしてこなかった、固定費が売上に対して重い、特定の取引先に依存していた、月次の数字を見ていなかった——を正直に書いたほうが、そのあとの改善策に説得力が出ます。

アクションプランは「仕組み」まで書く

第4回で見たとおり、数字だけの計画は説得力を持ちません。 損益計画の各行に、それを実現する行動が1対1で紐づいている必要があります。

数値目標アクションプラン担当期日
限界利益率 +3%主要20品目の価格改定(平均8%)営業部長令和9年1月
固定費 年△6,000千円第2倉庫の解約(年間家賃4,800千円)/リース1台返却総務令和8年12月
売上 月+2,000千円既存顧客への定期点検サービスの案内(対象120社)営業2名毎月20件訪問

「営業強化」「コスト削減の徹底」といった言葉だけの計画は、進捗を検証できません。

4. 「合理的で実現可能性が高い計画」の要件

どういう計画なら金融機関に受け入れられるのか。実は、その目安は公表されています。金融検査マニュアルの別表に示されていた要件(実務で「合実計画」と呼ばれるもの)です。

要件内容
計画期間原則として概ね5年以内。ただし5年を超え概ね10年以内でも、策定後の進捗が概ね計画どおり(売上高等および当期利益が計画比おおむね8割以上)で、今後も計画どおりに推移すると認められる場合を含む
到達点計画期間終了後の債務者区分が、原則として正常先となる計画であること(自助努力で事業継続できる状態なら要注意先でも可)
金融機関の合意すべての取引金融機関等において、計画に基づく支援を行うことが正式な内部手続を経て合意され、文書等で確認できること
支援の内容金融機関の支援が金利減免・融資残高維持等にとどまり、債権放棄や現金贈与を伴わないこと
経営改善計画の計画期間と到達点 原則は概ね5年以内に正常先へ到達する計画であり、進捗が計画比おおむね8割以上で推移していれば概ね10年以内の計画も認められ得ることを時間軸で示した図。 計画期間の目安と、そこで満たすべきこと 原則:概ね5年以内に正常先へ 進捗が計画比おおむね8割以上なら 概ね10年以内の計画も可 計画開始 5年 10年 あわせて満たすべきこと ・計画期間の終了後、原則として正常先になる計画であること ・すべての取引金融機関が、正式な内部手続を経て支援に合意し、文書で確認できること ・金融機関の支援が、金利減免・残高維持などにとどまること(債権放棄を伴わない)
図2:経営改善計画の計画期間と到達点

冊子の厚さは関係ありません

同じ別冊には、中小企業について**「大企業の場合と同様な大部で精緻な経営改善計画等を策定できない場合がある」と明記されています。そのうえで、計画がなくても、今後の資産売却予定・役員報酬や諸経費の削減予定・新商品の開発計画・収支改善計画といった具体的な方策**を確認して判断すべきだ、とされています。

求められているのは、立派な冊子ではなく「何をいくら、いつまでに」が具体的に書かれた数枚の紙です。

全行の合意が要る、ということ

見落とされやすいのが「すべての取引金融機関の合意」です。1行だけに相談して条件変更を受けても、他行が同じ対応をしなければ、計画は成立しません。

複数行と取引がある場合は、**最初からすべての金融機関を同じ場に集めて説明する(バンクミーティング)**のが原則です。ここは支援機関や税理士が間に入る意味が大きいところです。

5. 費用の3分の2が補助される2つの制度

経営改善計画の策定には、専門家の費用がかかります。これを国が補助する制度が2つあり、状況の深刻さで使い分けます。

早期経営改善計画策定支援(Vアップ事業)経営改善計画策定支援(405事業)
対象資金繰りの管理や経営状況の把握など、基本的な経営改善に取り組む事業者金融支援(返済猶予・新規融資等)を伴う本格的な経営改善が必要な事業者
金融機関の同意不要(金融支援を前提としない)必要
作るものビジネスモデル俯瞰図、経営課題と解決方針、アクションプラン、損益計画、資金繰表、実態貸借対照表上記に加え、より詳細な計画・返済計画
補助率3分の23分の2
補助上限(通常枠)計画策定支援 500千円/伴走支援 300千円DD・計画策定支援 2,000千円/伴走支援 1,000千円/金融機関交渉 100千円
中小版GL枠—DD費用等 3,000千円/計画策定支援 3,000千円/伴走支援 1,000千円
窓口各都道府県の中小企業活性化協議会同左

※ 金額は令和8年9月12日現在。制度は改定されます(直近では令和8年3月31日および5月1日に改定)。最新の要件は中小企業庁のページでご確認ください。

どちらを使うか

  • まだ返済は続けられるが、資金繰りが不安、自社の数字を整理したい → 早期経営改善計画(Vアップ事業)
  • 返済猶予など、金融機関の支援が必要 → 経営改善計画(405事業)

「まだそこまでではない」という段階で早期経営改善計画を使えるのが、この制度の良いところです。 金融機関の同意が要らないので、社内の整理として取り組めます。第2回〜第4回で扱った損益分岐点・資金繰り表・損益計画・アクションプランが、そのまま成果物になります。

誰が支援できるのか

計画策定を支援できるのは、**認定経営革新等支援機関(認定支援機関)**です。税理士、公認会計士、中小企業診断士、金融機関などが国の認定を受けています。当事務所も認定経営革新等支援機関です。

支援機関は、中小企業庁の認定経営革新等支援機関検索システムで探すことができます。本事業の活用実績も掲載されています。

6. 計画を出した後が本番——伴走支援

補助制度の名前に**「伴走支援」**という費用区分があることに、注目してください。計画は作って終わりではなく、その後のモニタリングまでがセットという設計になっています。

第10回で扱う予実管理が、そのまま計画の生命線になります。

  • 月次で計画と実績を比較し、ズレを数量・単価に分解する
  • ズレた理由と対策を整理する
  • 金融機関に定期的に報告する

とくに3つ目が大事です。計画を出した後は、四半期ごとなど決まった間隔で進捗を報告するのが通例です。良い数字のときだけ報告して悪いときに黙るのが、いちばんまずいやり方です。

第7回でご紹介したとおり、別冊には進捗が計画の8割に満たない場合でも**「機械的・画一的に判断するのではなく、計画を下回った要因について分析する」とあり、さらに「キャッシュフローの見通しをより重視することが適当」**とされています。

数字が未達でも、原因を説明でき、資金の見通しが立っているなら、対話は続きます。

7. それでも厳しいときの選択肢

経営改善では立ち行かない場合の枠組みも、公的に整備されています。判断を先送りにするより、早い段階で相談することが、結果的に関係者全員の損失を小さくします。

  • 中小企業活性化協議会:各都道府県にある公的な相談窓口。収益力改善・再生支援・再チャレンジ支援を扱います。まずはここに相談するのが順当です
  • 中小企業の事業再生等に関するガイドライン(中小版GL):私的整理の手続きを定めたもの。405事業の「中小版GL枠」は、この手続きに沿った取組みを支援するものです
  • 経営者保証に関するガイドライン:一定の要件を満たす場合、保証債務の整理にあたって自由財産を超える資産を残せる可能性があります

廃業という選択肢も、早く決断できれば、社長個人の生活を守れる形で進められる可能性が高くなります。 再チャレンジ支援という枠組みも用意されています。

まとめ

  • 条件変更(リスケ)は終わりではない。 ただし、何も示さずに返済猶予だけを求めると評価は下がる
  • 別冊には、最長1年以内に計画を作る見込みがあれば、その間は貸出条件緩和債権に該当しないと判断して差し支えないとある。「売却可能な資産・削減可能な経費・新商品の開発計画・販路拡大の見込み」のいずれかを具体的に示せるかが分かれ目
  • 計画書に書くのは、ビジネスモデル俯瞰図・窮境原因・アクションプラン・損益計画・資金繰り表・実態貸借対照表・返済計画
  • 窮境原因を外部環境のせいだけにしない。 アクションプランは担当・期日・数値まで
  • 受け入れられる計画の目安は概ね5年以内に正常先へ(進捗8割以上なら概ね10年以内も可)。すべての取引金融機関の合意が要る
  • 費用は3分の2が補助される。軽度なら早期経営改善計画(Vアップ事業)、金融支援が要るなら経営改善計画(405事業)
  • 計画は作って終わりではない。伴走支援=月次の予実管理と定期報告までが制度の設計

銀行に見せる4回分を終えて

第5回からこの第8回まで、創業期・成長期・下降期のそれぞれで銀行に出す書類を見てきました。通してお伝えしたかったのは、ひとつのことです。

経営計画は、銀行に出すための書類ではありません。 自分の会社がどこへ向かっていて、いま予定とどれだけずれているかを知るための道具です。そして結果として、それがいちばん銀行に評価されます。

損益分岐点で判断の基準を持ち(第2回)、資金繰り表でお金の流れを押さえ(第3回)、利益から逆算して計画を組み立て(第4回)。この社内の仕組みができていれば、銀行に見せる資料(第5回〜第8回)は、その副産物として自然に出てきます。

順番は逆にできません。銀行に見せるためだけに作った計画は、一度も使われないまま引き出しにしまわれます。

では、その社内の仕組みをどう回していくのか。次の第9回・第10回は、毎月の話です。作った計画を、毎月の数字と突き合わせて動かしていく方法を扱います。

→ 第9回:社長が毎月見る5つの数字|月次決算の経営者目線

当事務所は認定経営革新等支援機関として、早期経営改善計画・経営改善計画の策定支援、その後の伴走支援、金融機関との面談への同席まで対応しています。毎月の巡回監査で数字を締め、計画との差を見ていくところからご一緒できます。板橋区・大山で資金繰りや借入にご不安のある方は、状況が深刻になる前に無料相談をご利用ください。

参考(公的情報)

なお、会計の実務では、金額を千円単位で表すことがよくあります。この記事もそれに合わせています。1,000千円 = 100万円と読み替えてください。

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