【数字で会社を動かす④】経営計画書の作り方|利益から逆算して数字を組み立てる
経営計画を作ろうとすると、たいていは「来期の売上はいくらにしようか」から始まります。去年が120,000千円だったから、来期は130,000千円くらいか——という決め方です。
この作り方には、はっきりした欠点があります。売上から始めると、利益は最後に「残ったもの」になるという点です。残ったものは、多くの場合、借入の返済に足りません。
計画の数字は、順番を逆にして作ります。先に「いくら残さなければならないか」を決めて、そこから必要な売上高を逆算する。 この記事では、その手順を具体的な金額で追いかけます。
この回は、第2回「損益分岐点」と深くつながっています。 これから使う「必要売上高 =(固定費 + 目標利益)÷ 限界利益率」という式は、第2回で扱った損益分岐点の考え方そのものです。限界利益・限界利益率・固定費と変動費の分け方に自信がない方は、先に第2回をお読みいただくと、この記事の計算がすべてつながります。
※ この記事は令和8年9月19日現在の情報にもとづく一般的な解説です。税率や金額は会社の規模・状況により異なりますので、個別の判断は税理士にご確認ください。
この連載(全10回)の構成
1. 決算書の順番と、計画の順番は逆
決算書は「売上高 − 費用 = 利益」の順に並んでいます。過去に起きたことを記録する書類なので、これで正しいのです。
しかし計画は、これから起こすことを決める書類です。残さなければならない利益が先にあり、それを実現するために売上高が決まります。
「限界利益」という言葉は第2回で扱いました。売上高から変動費(材料費・仕入・外注費など、売上に比例して増える費用)を引いたものです。限界利益率は、その限界利益が売上高に占める割合です。
2. 手順の全体像
作る順番は次のとおりです。以下、順に見ていきます。
| 手順 | やること |
|---|---|
| 1 | 残すべき利益を決める |
| 2 | 固定費を見積もる |
| 3 | 必要限界利益を計算する(固定費+目標利益) |
| 4 | 必要売上高を計算する(必要限界利益 ÷ 限界利益率) |
| 5 | 実現できるかを検証し、差を埋める施策を積み上げる |
| 6 | 年間の計画を月別に割り振る |
| 7 | 行動計画(誰が・いつ・何を)に落とす |
3. 手順1:残すべき利益を決める
出発点は「いくら儲けたいか」ではありません。**「いくら残さないと会社が回らないか」**です。次の3つを積み上げます。
| 積み上げる項目 | 考え方 |
|---|---|
| 借入金の元金返済 | 元金の返済は費用になりません。利益から支払います |
| 法人税等 | 利益に対してかかります。おおむね3割前後をみておきます |
| 将来の投資・内部留保 | 設備の更新、採用、不測の事態への備え |
ここでいちばん見落とされるのが元金返済です。第3回でも触れましたが、借入金の元金返済は損益計算書に一切出てきません。利息だけが費用になります。つまり**「利益は出たのに預金が減る」の主因**です。
返済に必要な利益は、次の式で確かめます。
当期純利益 + 減価償却費 ≧ 年間の元金返済額
左側は「簡易キャッシュフロー」と呼ばれ、銀行が返済能力を見るときに使う数字です。第7回で再び出てきます。
具体例で計算します。
| 項目 | 金額 | 計算 |
|---|---|---|
| 年間の元金返済額 | 12,000千円 | 返済予定表から拾う |
| 減価償却費 | 3,000千円 | 償却予定から拾う |
| 必要な当期純利益 | 9,000千円 | 12,000千円 - 3,000千円 |
| 必要な税引前利益 | 約13,000千円 | 9,000千円 ÷ (1 - 0.3) |
なお、会計の実務では、金額を千円単位で表すことがよくあります。この記事もそれに合わせています。1,000千円 = 100万円と読み替えてください(第2回でも同じ単位を使っています)。
この会社は、税引前で約13,000千円の利益を出さないと、借入を予定どおり返せません。ここが計画の出発点になります。
4. 手順2〜4:固定費を積み、必要売上高を出す
手順2では、固定費(売上が増減しても大きくは変わらない費用)を積み上げます。人件費・役員報酬・法定福利費・賞与・家賃・減価償却費・保険料・広告費などです。
人件費は固定費として扱います。来期に採用する予定があれば、その分を必ず入れてください。 昇給・賞与も同様です。ここを現状のままに置くと、計画が絵空事になります。
手順3・4は、電卓の計算です。
| 項目 | 金額 | 計算 |
|---|---|---|
| 目標利益(手順1) | 13,000千円 | — |
| 固定費(手順2) | 50,000千円 | 積み上げた合計 |
| 必要限界利益 | 63,000千円 | 13,000千円 + 50,000千円 |
| 限界利益率 | 40% | 直近の実績から |
| 必要売上高 | 157,500千円 | 63,000千円 ÷ 0.4 |
前期の売上高が130,000千円だったとすれば、27,500千円(約21%)の上乗せが必要という結論になります。
「そんなに増やせない」と感じたら、それが正しい反応です。ここからが計画づくりの本番です。
5. 手順5:実現できるかを検証し、差を埋める
必要売上高が出たら、そのまま目標にはしません。 次の2つを並べて比べます。
- 成り行き売上高 — いまの取引先・商品・営業体制のまま推移した場合の売上高。手堅く見積もります
- 必要売上高 — 手順4で計算した数字
この差が、埋めなければならないギャップです。
ギャップを埋めるときは、売上を要素に分解します。「売上を20%増やす」では行動になりませんが、分解すると行動になります。
| 業種 | 分解のしかた |
|---|---|
| 小売・飲食 | 客数 × 客単価 × 営業日数(または回転数) |
| 法人向けの営業 | 既存顧客の継続売上 + 新規開拓の売上 |
| 受注型・工事業 | 得意先別の想定受注額の積み上げ |
| 製造・卸 | 商品分類別の 数量 × 単価 |
そのうえで、ギャップの22,500千円を「既存客の単価3%アップで◯◯千円」「新規5社の開拓で◯◯千円」というように、ひとつずつ金額を置いて足していきます。合計がギャップに届かなければ、固定費を見直すか、目標利益そのものを調整します。ここで無理に数字を合わせないことが、続く計画かどうかの分かれ目です。
6. 手順6:年計画を月別に割り振る
年間の数字ができたら、初年度分を12か月に割り振ります。ここで一つだけ守っていただきたいことがあります。
12で割ってはいけません。
年間157,500千円を12等分して毎月13,125千円とすると、繁忙期も閑散期も同じ目標になり、毎月の比較が意味を持たなくなります。過去数年の月別実績を並べ、季節の山と谷を反映させてください。
| 費目 | 月別への落とし方 |
|---|---|
| 売上高 | 過去の月別実績の比率で配分する |
| 変動費 | 月別の売上高に変動費率を掛ける |
| 固定費 | 年間額を12か月にならす。ただし賞与・保険料など特定月に出るものはその月に置く |
この月別計画が、そのまま第10回の予実管理の土台になります。
7. 手順7:行動計画に落とす
数字だけの計画は、必ず「絵に描いた餅」になります。 数字を行動に翻訳する作業が要ります。
行動計画に入れるべき要素は5つです。
| 要素 | 悪い例 | よい例 |
|---|---|---|
| 何を | 新規開拓を強化する | 板橋区内の建設業者へ、月10件の訪問を行う |
| 誰が | 営業部 | 営業部 ◯◯(責任者を個人まで特定する) |
| いつまでに | 今期中 | 10月開始、毎月継続、3月末まで |
| どこまで(KPI) | がんばる | 訪問10件/月、成約1件/月 |
| どう確認するか | — | 毎月15日の会議で進捗を確認する |
「徹底する」「強化する」「努力する」という言葉が出てきたら、まだ行動計画になっていません。 数えられる形にしてください。
8. まずはA4・1枚から
数十ページの計画書を作ると、更新できずに途中で止まります。最初は次の6項目だけで十分です。
| # | 項目 | 分量の目安 |
|---|---|---|
| 1 | なぜ今この計画を作るのか(副題) | 1〜2行 |
| 2 | 経営理念・3年後にどうなっていたいか | 数行 |
| 3 | 外部環境(機会・脅威)と自社の強み・弱み | 各2〜3項目 |
| 4 | 数値目標と、どこに資源を配分するか | 数行 |
| 5 | 3か年の損益計画と、初年度の月別計画 | 表1枚ずつ |
| 6 | 主要な施策と行動計画(担当・期日・KPI) | 表1枚 |
計画期間は3年をおすすめします。1年では方向性が描けず、3年を超えると環境が変わりすぎて、計画と現実が離れてしまうためです(金融機関へ提出する経営改善計画では、5年程度を求められる場合もあります。第8回で扱います)。
9. 計画を立てて回す練習ができる場——戦略MG研修
ここまでの手順は、読めば分かります。けれども、実際にやってみると手が止まります。固定費をいくらに見積もるか、ギャップをどの施策で埋めるか、どこまで強気の数字を置くか。 正解が書いていないところばかりだからです。
そして厄介なことに、この判断の良し悪しは、1年経たないと分かりません。 実際の経営で5期分の経験を積むには、5年かかります。
当事務所では、戦略MG(マネジメントゲーム)研修を行っています。盤上でそれぞれが一社の社長になり、期首に計画を立て、1期を経営し、期末に自分の手で決算書を作る——これを1日で何期もくり返す研修です。
この記事で扱った逆算を、そのまま何度も試せます。
| この記事の手順 | 研修での体験 |
|---|---|
| 残すべき利益を決める | 返済と次の投資から、今期いくら残すかを決めて期を始める |
| 固定費を積む | 人を雇う・設備を買うと、その後の期がどれだけ重くなるかを味わう |
| 必要売上高を逆算する | 市場に出て、その数量を本当に取れるのかを確かめる |
| ギャップを施策で埋める | 値上げ・新規開拓・品揃えの変更を実際に打ってみる |
| 計画と実績を見比べる | 期末の決算書で、どこがずれたのかを毎期確認する |
研修で使うMQ会計は、この記事の考え方と同じものです。売価をP、1個あたり原価をV、その差をM、数量をQと置くと、限界利益はMQ、固定費はF、利益はGとなり、
MQ - F = G(限界利益 - 固定費 = 利益)
この式を「G(利益)から逆に解く」のが、まさにこの記事でやってきたことです。
まとめ
- 計画の数字は、決算書と逆の順番で作る。利益が出発点
- 残すべき利益は「元金返済 + 税金 + 将来の投資」から積み上げる
- 返済できるかの目安は「当期純利益 + 減価償却費 ≧ 年間の元金返済額」
- 必要売上高 =(固定費 + 目標利益)÷ 限界利益率
- 必要売上高をそのまま目標にせず、成り行きとのギャップを施策に分解する。届かなければ固定費か目標に戻る
- 月別に割るとき、12等分は禁物。季節の山谷を反映させる
- 数字には必ず**行動計画(誰が・いつ・何を・どこまで)**をセットにする
- 分厚い計画書より、更新し続けられるA4・1枚。期間は3年が目安
- 計画を立てて回す感覚は、**戦略MG研修**で1日に何期分も練習できる
当事務所では、毎月お伺いする巡回監査の場で、この逆算を社長とご一緒に行っています。試算表の数字がそのまま計画の土台になりますので、別途の作業がほとんど要りません。板橋区・大山で「計画を作りたいが、どこから手をつければいいか分からない」という方は、無料相談をご利用ください。
→ 第5回:創業計画書の書き方|公庫の様式10欄を順に埋める
参考(公的情報)
- 経済産業省:ローカルベンチマーク(財務6指標=売上高増加率・営業利益率・労働生産性・EBITDA有利子負債倍率・営業運転資本回転期間・自己資本比率)
- 経済産業省:ローカルベンチマークのシート(無料のExcelシート。自社の数字を入れると6指標が出ます)
- 中小企業庁:経営力向上計画(A4数枚の計画書の様式・記載例が公開されています)
- 中小企業庁:早期経営改善計画策定支援(計画づくりの費用に補助を受けられる制度。第8回で扱います)
- 日本政策金融公庫:創業計画書の記入例(PDF。数値計画の書き方の参考になります)