相続

【信託シリーズ④】家族信託の税金|誰に・いつ・何がかかるかを設定時/期間中/終了時で整理

「財産の名義を子に移すのだから、贈与税がかかるのでは?」

家族信託のご相談で、必ず出る質問です。答えは**「原則としてかかりません」**。理由はただ一つ、税法は名義ではなく「利益を受ける人(受益者)」を見るからです。

この回では、信託の税金を設定時/期間中/受益者が変わったとき/終了時の4つの場面に分けて整理します。少し専門的になりますが、ここを押さえておけば「思わぬ課税」を避けられます。

※本記事は令和8年8月17日現在の法令・公表情報をもとに作成しています。実際の課税関係は信託の設計と財産の内容によって異なりますので、実行前に必ず税理士にご確認ください。

この連載(全5回)の構成

テーマ
第1回家族信託とは何か|仕組みと登場人物
第2回遺言・成年後見・生前贈与との違いと使い分け
第3回家族信託が有効な5つの場面
第4回(この記事)信託の税金|誰に、いつ、何の税金がかかるのか
第5回失敗しないための注意点|遺留分・30年ルール・信託口口座

1. 大原則|税金は「受益者」にかかる

家族信託の税務は、受益者等課税信託という枠組みで扱われます。条文は次のとおりです。

信託の受益者(受益者としての権利を現に有するものに限る。)は当該信託の信託財産に属する資産及び負債を有するものとみなし、かつ、当該信託財産に帰せられる収益及び費用は当該受益者の収益及び費用とみなして、この法律の規定を適用する。(所得税法13条1項)

つまり、税務上は「受益者が財産を持っている」ものとして扱われます。不動産の登記名義が長男(受託者)になっていても、家賃収入を申告するのは受益者である父です。相続税法にも同様の規定があります(相続税法9条の2第6項)。

名義と課税のずれ 信託をすると、不動産の登記名義や預金口座の名義は受託者である長男になりますが、税務上は受益者である父が資産と負債を持っているものとみなされます。したがって家賃収入の確定申告をするのは父であり、相続が起きたときに相続税の対象になるのも父の受益権です。受託者である長男には、受託者としての税金はかかりません。 名義は受託者。でも税金は受益者にかかる 見た目(法律上の名義) 登記名義・口座名義は 長男 「受託者 長男」と登記される 長男の財産ではありません 税務上の取扱い 受益者(父)が持っているとみなす 家賃の確定申告は父 相続税の対象も父の受益権
図1:名義と課税のずれ。所得税法13条1項により、税務上は受益者が資産・負債を持っているものとして扱われます。

この一点を押さえれば、以下の課税関係はすべて説明がつきます。**「利益を受ける人が変わったときだけ、課税される」**のです。

2. 設定時(信託を始めたとき)の税金

2-1. 贈与税がかかるかどうかは「受益者が誰か」で決まる

信託の型受益者設定時の課税
自益信託委託者本人(父 → 父)課税なし。実質的な持ち主が変わらないため
他益信託委託者以外(父 → 長男)受益者に贈与税(相続税法9条の2第1項)
遺言による信託委託者の死亡により受益者に受益者に相続税(遺贈により取得したものとみなす)

条文はこうです。

信託の効力が生じた場合において、適正な対価を負担せずに当該信託の受益者等となる者があるときは、当該信託の効力が生じた時において、当該信託の受益者等となる者は、当該信託に関する権利を当該信託の委託者から贈与(当該委託者の死亡に基因して当該信託の効力が生じた場合には、遺贈)により取得したものとみなす。(相続税法9条の2第1項)

家族信託のほとんどは自益信託(父が委託者兼受益者)ですので、設定時に贈与税はかかりません。これが実務の出発点です。

なお、受益者が存在しない信託(まだ生まれていない孫を受益者にするなど)では、受託者に対して贈与税・法人税が課される特別な取扱いがあります(相続税法9条の4)。設計の際は必ず税理士にご確認ください。

2-2. 不動産取得税は非課税

委託者から受託者へ不動産を移す場合、不動産取得税はかかりません

道府県は、次に掲げる不動産の取得に対しては、不動産取得税を課することができない。(略)三 委託者から受託者に信託財産を移す場合における不動産の取得(地方税法73条の7第3号)

生前贈与で不動産を渡すと不動産取得税がかかることと比べると、これは信託の大きな利点です。

2-3. 登録免許税は「所有権移転は非課税、信託の登記は課税」

ここが少しややこしいところです。信託の登記は、次の2つがセットで行われます。

登記の種類税率根拠
所有権移転の登記(委託者→受託者)非課税登録免許税法7条1項1号
信託の登記(信託財産である旨の公示)固定資産税評価額の0.4%登録免許税法 別表第一
(土地の場合の軽減)0.3%租税特別措置法72条1項2号

土地の軽減税率(0.3%)は時限措置ですが、令和8年度税制改正で適用期限が3年延長され、令和11年3月31日までとされています。

信託の設定時にかかる税金 自益信託を設定した場合、贈与税と所得税はかからず、不動産取得税もかかりません。所有権移転の登記の登録免許税も非課税ですが、信託の登記については固定資産税評価額の0.4パーセント、土地は0.3パーセントの登録免許税がかかります。固定資産税評価額3000万円の土地と1000万円の建物を信託した場合、登録免許税は合わせて13万円になります。 自益信託を設定したときにかかる税金 贈与税・所得税 … かかりません 不動産取得税 … かかりません 所有権移転の登録免許税 … 非課税 信託の登記の登録免許税 … かかります 計算例(固定資産税評価額) 土地 3,000万円 × 0.3% = 9万円 建物 1,000万円 × 0.4% = 4万円 登録免許税の合計 13万円 ※このほか司法書士報酬・公証人手数料等が必要です 土地の0.3%は租税特別措置法72条1項2号(令和8年度税制改正で3年延長され令和11年3月31日まで)。 建物には軽減がないため0.4%(登録免許税法 別表第一)。
図2:設定時にかかる税金。実際に負担が生じるのは「信託の登記」の登録免許税です。

3. 期間中(信託が続いている間)の税金

3-1. 収益は受益者の所得として申告する

信託したアパートの家賃は、受益者の不動産所得として確定申告します。受託者である長男の所得にはなりません。減価償却費や固定資産税などの必要経費も、受益者の側で計上します。

なお、固定資産税の納税通知書は、登記名義人である受託者に届きます(地方税法上の納税義務者は名義人)。受託者は信託財産の中から支払い、その費用は受益者の必要経費になります。「自分あてに通知が来たから自分の税金だ」と誤解しないようご注意ください。

3-2. 赤字は切り捨てられる(重要)

信託した不動産から赤字が出ても、他の所得と相殺できません

特定受益者(信託の所得税法第13条第1項に規定する受益者をいう。)に該当する個人が、(略)その年分の不動産所得の金額の計算上当該組合事業又は信託による不動産所得の損失の金額として政令で定める金額があるときは、当該損失の金額に相当する金額は、(略)生じなかつたものとみなす。(租税特別措置法41条の4の2第1項)

給与所得との損益通算も、翌年への繰越しもできません。これは家族信託の税務上、最大の落とし穴です。詳しくは第5回で具体例とともに解説します。

3-3. 受託者が毎年・その都度出す書類

受託者には、税務署への提出義務があります。ご家族が受託者になる場合、ここを知らずに放置してしまう例が少なくありません。

書類提出する場面期限提出しなくてよい場合根拠
信託の計算書(合計表とともに)毎年翌年1月31日信託財産に係る収益の額が年3万円以下のとき(計算期間が1年未満の場合は月割り)所得税法227条、同法施行規則96条
信託に関する受益者別(委託者別)調書(合計表とともに)①信託の効力発生 ②受益者等の変更 ③信託の終了 ④権利内容の変更その事由が生じた月の翌月末日信託財産の相続税評価額が50万円以下のときなど相続税法59条3項、同法施行規則30条

条文上の提出期限は次のとおりです。

信託(略)の受託者は、財務省令で定めるところにより、その信託の計算書を、(略)信託会社以外の受託者については毎年1月31日までに、税務署長に提出しなければならない。(所得税法227条)

信託の受託者で(略)次に掲げる事由が生じた場合には、当該事由が生じた日の属する月の翌月末日までに、財務省令で定める様式に従つて作成した受益者別(略)の調書を(略)提出しなければならない。(相続税法59条3項)

提出を怠った場合や虚偽の記載をした場合には、1年以下の拘禁刑または50万円以下の罰金という罰則があります(所得税法242条5号、相続税法70条)。実際に適用される例は多くありませんが、「家族の間のことだから」で済む話ではありません。

受託者が税務署へ提出する書類 信託の計算書は毎年提出し、期限は翌年1月31日です。ただし信託財産に係る収益の額が年3万円以下であれば提出は不要です。信託に関する受益者別調書は、信託の効力発生、受益者の変更、信託の終了、権利内容の変更という事由が生じたときに提出し、期限は事由が生じた月の翌月末日です。相続税評価額が50万円以下であれば提出は不要です。 信託の計算書 所得税法227条 毎年 提出 期限:翌年1月31日 収益の額が年3万円以下なら 提出不要 受益者別(委託者別)調書 相続税法59条3項 効力発生・受益者の変更 終了・権利内容の変更のとき 期限:翌月末日 相続税評価額が50万円以下なら 提出不要
図3:受託者が税務署へ提出する2つの書類。期限も対象も違うため、混同しないよう注意が必要です。

4. 受益者が変わったときの税金

信託の税務でいちばん重要な場面です。受益者が変われば、そこで財産が移転したものとして課税されます。

変わり方課税根拠
受益者が死亡し、次の受益者に移る新受益者に相続税(遺贈により取得したものとみなす)相続税法9条の2第2項
生前に受益者を変更した新受益者に贈与税相続税法9条の2第2項
受益者の一部がいなくなり、残った受益者が利益を受けるその受益者に贈与税・相続税相続税法9条の2第3項
受益者連続型信託における課税のタイミング 父が第1受益者である間は課税されません。父が亡くなって母が第2受益者になった時点で、母に相続税がかかります。母が亡くなって長男が第3受益者になった時点で、長男に相続税がかかります。世代を飛ばして孫が受益者になる場合には、相続税額の2割加算の対象になります。 信託の設定 父が第1受益者 課税なし(自益信託) 父の死亡 母が第2受益者に 母に相続税 母の死亡 長男が第3受益者に 長男に相続税 受益者を孫にすると、相続税額の2割加算の対象になります(相続税法18条)
図4:受益者連続型信託の課税タイミング。受益権が移るたびに課税されます。「一度の信託で税金が1回で済む」わけではありません。

ここは誤解が多いところです。 受益者連続型信託にすると「二次相続の相続税を飛ばせる」と説明されることがありますが、そうではありません。受益権が移るたびに、その時点の受益者に相続税がかかります。信託は承継先を決める仕組みであって、課税を減らす仕組みではないのです。

なお、孫を受益者にする場合は相続税額の2割加算(相続税法18条)の対象になります。世代を飛ばした承継には、その分の負担があるということです。

5. 終了時(信託が終わったとき)の税金

信託が終わると、残った財産(残余財産)は、契約で定めた帰属権利者に渡ります。

場面課税根拠
残余財産を、対価なしに取得した取得した人に贈与税(受益者の死亡により終了した場合は相続税相続税法9条の2第4項
終了直前の受益者がそのまま取得したその部分については課税されない(すでにその人のものとして課税済みのため)同項かっこ書き

不動産の場合、次の2つも確認が必要です。

税目取扱い
不動産取得税「効力発生時から委託者のみが元本の受益者である信託」で、取得するのが委託者本人またはその相続人であるときは非課税(地方税法73条の7第4号)
登録免許税同様の場合で取得者が委託者の相続人であるときは、相続による移転登記とみなして0.4%(登録免許税法7条2項)

つまり、**「父が委託者兼受益者、父の死亡で終了、財産は子へ」**という典型的な家族信託であれば、終了時の不動産取得税は非課税、登録免許税は相続と同じ0.4%で済みます。これは設計次第で変わりますので、契約書の作り方が重要です。

6. 信託受益権の評価

相続税・贈与税の計算では、信託受益権そのものを評価するのではなく、信託財産の中身を評価します。

元本と収益の受益者が同一である一般的な家族信託では、課税時期における信託財産の相続税評価額がそのまま受益権の評価額になります(財産評価基本通達202)。土地であれば路線価、建物であれば固定資産税評価額といった、通常の評価方法によります。

言い換えれば、信託をしたからといって評価が下がることはありません。小規模宅地等の特例や貸家建付地評価などが使えるかどうかは、信託の設計と実態によって判断されます。

7. 誤解されやすい3つのポイント

信託の税金でよくある3つの誤解 1つ目の誤解は、信託をすると相続税が下がるというものですが、信託に節税効果はなく、評価も下がりません。2つ目の誤解は、名義が子になるのだから子が申告するというものですが、申告するのは受益者である親です。3つ目の誤解は、赤字が出ても他の所得と相殺できるというものですが、信託した不動産の赤字は切り捨てられます。 誤解①「信託をすれば相続税が下がる」 → 信託に節税効果はありません。評価額も下がりません(財産評価基本通達202) 誤解②「名義が子になるのだから、申告するのも子」 → 確定申告をするのは受益者である親です(所得税法13条1項) 誤解③「赤字が出ても他の所得と相殺できる」 → 信託した不動産の赤字は切り捨てられます(租税特別措置法41条の4の2)
図5:信託の税金でよくある3つの誤解。いずれも実務で実際に起きている行き違いです。

よくある質問

Q1. 信託をすると、税務署から怪しまれませんか?

いいえ。受託者が「信託に関する受益者別(委託者別)調書」を提出しますので、税務署は信託の存在を把握しています。むしろ、提出すべき書類を出さないほうが問題です。適正に手続きしていれば、後ろめたいことは何もありません。

Q2. 受託者である子には、何か税金がかかりますか?

受託者として財産を預かること自体には課税されません。信託財産は受託者の固有財産とは別のものとして扱われます。ただし、受託者が信託報酬を受け取る場合は、その報酬が雑所得等として課税されます(家族信託では無報酬とする例も多くあります)。

Q3. 信託した不動産を売ったとき、譲渡所得は誰が申告しますか?

受益者です。所有期間の判定も、受益者が取得した日から数えます(信託をした日にリセットされるわけではありません)。居住用財産の3,000万円特別控除などの特例も、要件を満たせば適用を検討できます。

Q4. 信託の計算書は、税理士に頼まないと作れませんか?

書式自体は複雑ではありませんが、信託財産の内容・収益の額・受益者の情報を正確に記載する必要があります。当事務所では、信託の設計をご一緒した場合、その後の毎年の提出まで含めてサポートしています。

Q5. 収益が年3万円以下なら、本当に何も出さなくてよいのですか?

「信託の計算書」については提出を要しないとされています(所得税法施行規則96条)。ただし、受益者別調書のほうは、信託の効力発生や受益者の変更といった事由ごとに判定されますので、両者を混同しないでください。判断に迷う場合はご相談ください。

まとめ

  • 信託の税金は**「受益者」にかかる**(所得税法13条1項、相続税法9条の2第6項)。名義は関係ありません
  • 自益信託の設定時は課税なし。他益信託なら受益者に贈与税(相続税法9条の2第1項)
  • 不動産取得税は非課税(地方税法73条の7第3号)。所有権移転の登録免許税も非課税
  • 実際に負担が生じるのは信託の登記の登録免許税0.4%(土地は0.3%)
  • 期間中の家賃は受益者の不動産所得。ただし赤字は切り捨てられる(租税特別措置法41条の4の2)
  • 受託者は**信託の計算書(翌年1月31日)受益者別調書(翌月末日)**の提出義務を負う。罰則もあります
  • 受益者が変わるたびに課税される。受益者連続でも相続税は飛ばせません
  • 典型的な家族信託なら、終了時の不動産取得税は非課税、登録免許税は相続と同じ0.4%
  • 信託に節税効果はありません。評価が下がることもありません

次回は、この連載の最終回。遺留分・30年ルール・信託口口座など、失敗を避けるための注意点をまとめます。

第5回:失敗しないための注意点|遺留分・30年ルール・信託口口座

ご参考(令和8年8月17日現在)

信託の税務は、設計の段階で決まってしまう部分が多くあります。契約書を作ってからでは間に合わない論点(損失の切捨て、終了時の登録免許税、小規模宅地等の特例の可否など)が少なくありません。税理士として相続税の試算と課税関係の確認を行いながら設計できるのが、当事務所の強みです。板橋区・大山までご相談ください。

なお、不動産の信託登記は司法書士、ご家族間に争いがある場合は弁護士と、提携の専門家と連携して進めます。

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